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美影の様子に私は申し訳なく力が抜けて、どさっと椅子に座った。
私はまだ未成年だから大人の決定に従うしかないんだけど、これはいきなり過ぎた。
お父さんたちが本当の親じゃないっていうショッキングな事実を聞いても悲しむどころか混乱しかない。
ほらよくあるじゃん? マンガとかで実はあなたはうちの子じゃないのよって展開。
主人公はショックを受けて泣いて叫んでどっかに飛び出していくけど、実際ねぇ。
あれはないわー。驚いて、あ、はい?、って思う。私みたいに。
そっから詳しい話を聞いて、自分の中で理解して、初めて悲しくなったりすると思う。
聞いてすぐに理解して悲しいっていう感情に辿り着くまでの過程が、雑。
しかも私みたいにお母さん一人で父親が三人っていう状況で何かがおかしいぞっていう前振りもなく、両親だけの子が疑いも持たずに実の子じゃないって受け入れるって素直すぎるでしょ。
そんな現実逃避に近いことを考えていると、お父さんが眼鏡を外して目頭を両手で解すついでに口を開く。
「八年前。オレと須藤と多門と亜由美は、洸姫を本当の親たちから託された。四歳の誕生日を迎える一週間前だ」
「わかっていた事とはいえ、あれは託されたっていうか連れ去りだったけどねー」
茶々を入れた父をお父さんが睨んで、誤解を招くような事を言うなと釘を刺した。
十二年前。あと一週間で十三年前だけど。
私という人間は、正武家という家に生まれたそうだ。
しかも双子らしい。二卵性の。私が妹で兄がいるらしい。
ドラマチックな展開だ。
父親の名前は玉彦。母親の名前は比和子。兄の名前は天彦。
お父さんたちは父親の家で働いていて、お父さんとお母さんとパパは父親と母親の同級生。
父は九州で父親の家の下請けだったけど、大人になってから本社? に入ったそうだ。
父が九州出身と聞いて、私は納得した。
なにせとことん冬に弱いのだ。冬っていうか寒さ。ううん、弱いっていうか嫌っていた。
とあるのっぴきならない事情で(のっぴきならないって後で辞典で引いたら追い詰められて身動きが取れない状態って意味だった)、数え歳の五歳から十四歳まで親元を離れなければならなくなったらしい。
私はこれを聞いて嫌な予感がした。
私の本当の親って人たちは、もしかして占いとか信じちゃう人種で、占いでそんな結果が出たから私を離したんじゃないかって。
お父さんの話を聞けば、父親の家はかなりな地主でお坊ちゃまということだから、結婚した母親もお坊ちゃまに釣り合うお嬢様で、世間知らずな二人はしょうもないぼんくら占い師に騙されたんじゃ……。
それに離れている八年間、一切連絡を取ってはいけないっていう条件だったみたいだから、占い師に家を乗っ取られてる可能性だってある。
有能なお父さんたちを遠ざけて家を乗っ取る。占い師、怖い。
そんな想像を繰り広げていると、私の考えを察したお父さんが半目になった。
「あのな。あっちの家にはオレの兄貴や息子、甥だな。二人がいるからお前が妄想してるような事にはなってないぞ」
「ほんとに? 占い師に乗っ取られてるんじゃない?」
「どこから占い師が出て来た……」
「悪い親戚とか……」
「どんな妄想してんだ……」
呆れて溜息をついたお父さんはともかく、と話を戻す。
親元を離れなければ最悪死ぬ予定の私を連れて、お父さんたちは海を越えて北海道に移住した。
ということは本当の家は本州にあるのかー。
お父さんたちは家から支給されていた莫大なお金(いくらか聞いても教えてもらえなかった)を元に喫茶店をオープンさせた。
どこかに勤めてしまうと時間が拘束されてしまうし、私を育てるために時間が自由な仕事にしたそうだ。
お父さんはアレだけど、パパや父は料理が上手かったので喫茶店は都合が良かったらしい。




