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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
daughter and father father father
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 歯磨きの後、顔も洗って若干腫れた瞼を気にしつつ、ダイニングルームに行くとお父さんたちが既に座っていてお母さんもいた。

 美影もあとから遅れて来て、全員揃ってからいただきますをする。


 何も変わらないごくありふれた朝ご飯の時間だった。

 いつもだと朝ご飯のあとは喫茶店のお仕事でお父さんたちはすぐに店がある別棟に出勤するけれど、今朝はそのまま腰を上げなかった。


 年中無休のお店なのに、今日はお休みにしたのだろうか。

 ……昨日、あんな話になったから家族会議でも開くのかな。

 どことなく朝ご飯の時もぎくしゃくしてたし、特にパパが。

 こっそり隣のパパを窺えばばっちりと目が合って、お互いに何となく気まずくて笑う。


 食後のコーヒーを用意していたお母さんが席に着くとお父さんが、さて、と言って姿勢を正し、銀縁眼鏡をきらりんとさせた。


「まぁ、あれだ。洸姫には昨日話したが、そういうことだ。約束の期日まではあと一週間ほどだが、一週間前に出奔したからもう戻っても良いだろう。数えで十四。正月の初詣で御倉神みくらのかみが姿を現したってことは、五村の意志のしがらみは解けたとオレは解釈した。よって喫茶店は閉店。家は取り壊す。洸姫と美影は鈴白に転校。出立はすぐ。飛行機の手筈は整えた。今夜は通山市で一泊して明日に正武家しょうぶけへと帰還し、洸姫を次代と上守かみもりに」


「ちょーーーーぉっと待ったぁっ!」


 つらつらと訳の分からないことを当然のように話すお父さんを私は遮った。

 ツッコミどころが多すぎるっ。


「転校って、なんなの!? お店潰れるの!? 家壊しちゃうの!? 飛行機ってどこに行くの!? てゆうか、どこに帰還!? 家はここじゃん!」


 バンッとテーブルに手を叩きつけて立ち上がると、父が髪をまとめ上げて結びながら私を横目で見た。


「そういうものだから、そういうもんだ。豹馬。昨日きちんと洸姫に話せなかったからここで話そうぜ。お前も座れ。まぁ落ち着けよ」


 父はいつもそうだ。

 そういうものだからって決めゼリフで面倒な説明を省こうとしたり、無茶を押し通そうとする。

 何度それで納得のいかないことを納得させられたか。

 でも今日はそうはいかない。


「おっ、おっ、落ち着いてなんかいられないよ! 全然訳分かんないんだけど! パパたちがパパたちじゃなかったからってどういう話でこんなになんの!? どうして今日、すぐなの!?」


 私は立ったまま、困り顔の大人たちを見まわし、美影で視線を止めた。


 私と同じく瞼を腫らしている美影。

 六年生になってそう簡単には泣かなくなったのに。

 きっと昨日の夜、私が呆然と部屋に戻った後、お父さんたちから一足早く転校とか引越しの話を聞いたんだ。

 卒業まであと二ヶ月くらい。

 友達も出来て成績も私とは違って良いし、中学にいったら部活はバスケだって決めていた。


 なのに親のというか、明らかに私の都合で全部無茶苦茶になって、それは睨みたくもなるわなー……。



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