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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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「だーかーら。あんたってほんと何年も同じこと繰り返しやがるわね。そこをぽちっと押したらダメなんだってば!」


「でもよー、ぽちっと押したらぱちっとつくだろ?」


「ぱちっとついてるのにぽちっと押したら消えるでしょうが! この猿頭め!」


「比和子様。もう少しお言葉を……」


「良いのよ、竜輝くん。猿助なんだから。猿頭の猿助なんだから! そんなんだから天彦の落とし穴に引っ掛かるのよ!」


「なにおう! あれはな、あいつの穴掘りの才能がすごいからだ!」


 藍染村の山小屋でぐぬぬと睨み合ったアラフォーの私と猿助の間に竜輝くんが割り込んで止めに入る。


 正月早々表門に現れた猿助が発電機の様子がおかしいので見てくれというので来て見れば、鳴丸がきちんと操作しているのに猿助が余計なことをして止めているだけだったのだった。

 いつもは近所に住む小町が面倒をみてくれているのだが、今年は通山の守くんの実家に家族そろって帰省をしているので私と竜輝くんが出張った次第である。


 猿助は今後発電機に触るの禁止! と宣言をして鳴丸に見張るように頼み、私と竜輝くんは山小屋を出て猛吹雪の中、車へと戻った。

 年末に押し寄せた寒波の影響で、正月三が日が明けても五村は雪に襲われていた。

 どこかで雪ん子が泣いているのではと思う程の大雪で、仕事始めは家人も含めて全員で除雪作業だったくらいだ。

 といってもお屋敷に向かう山道や駐車場は村の人たちのご厚意で除雪車が入ってくれるし、外の石蔵には二台の除雪機があるのでそんなに手間は掛からないが、母屋周りなど除雪機が使えないところは人の手で頑張るといった感じである。


「この分だと帰ったらまた除雪ね」


 車のエンジンを暖めている竜輝くんに話し掛けると、振り向いてにっこりと笑う。


「ではドライブして帰りましょうか。父もたまには身体を動かした方が良いと思いますので」


 さらりと親不孝発言をした竜輝くんに家族不幸者の私はいいねーと同意し、車はゆっくりと山小屋から離れた。


 といっても。


 車で走れども猛吹雪で視界が悪く、景色を楽しむ間もなく車が埋まることを危惧した私たちは早々に鈴白村へ向かう。

 早朝に一度除雪されたはずの道路には吹き溜まりが出来ていてかなり危険になっていたが、幸いなことに対向車が全く無かったのでわりとスムーズに鈴白村に入った。


 お祖父ちゃんの家の前の一本道をゆっくりと進む車の窓から亜由美ちゃんの実家が見え、それから高田くんの家。

 正武家から下賜された家である。


 そうしてしばらくすると、私のお祖父ちゃんの家。

 雪に埋もれて良く解らないことになっている。

 それでも道路から玄関先までは除雪されているので生存確認は出来た。


 三年前にお祖母ちゃんが亡くなり、昨年はお祖父ちゃんが後追うように亡くなった。

 ぽっかりと二人が居なくなり寂しくなると思っていたけれど、希来里ちゃんがお婿さんを迎えて今年結婚予定なので再び騒がしくなるのだろう。

 こうして上守の血は続いていく。


 ちなみに婿に入る決断をしてくれた相手は、昔の本命の竜輝くんではなく、大穴と須藤くんに言われた緋郎くんだった。

 小中高と同じでも二人の間に色恋沙汰はなかったのだけれど、社会人になり村の外へ出ていた緋郎くんが帰省した折りに希来里ちゃんと良い仲になったようで。

 けれど緋郎くんは村外で仕事をし生活基盤もそちらだったので、二人の関係は遠距離恋愛に近かった。

 そうして二十も半ばになり、結婚話も出て来て光次朗叔父さんから上守を継がない男に娘はやらんという一言で緋郎くんは村外での仕事を辞め、婿入りを決めたのだった。

 といってもすぐに仕事を辞められるわけではなかったようで、結婚を決断してから半年が過ぎている。


 この話を聞いた玉彦は遠距離恋愛も悪くはないと言い、澄彦さんは上守が続くことを喜んだ。

 天彦に至ってはもし待ち続けて嫁に行き遅れたら、自分が娶ってやらなくもないと上から目線だった。

 母は反対しますけどねっ。希来里ちゃんのために!




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