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哀愁漂う澄彦さんの肩を叩き、私が残念というように首を振っていると、騒動の最中を抜け出して母屋へ行っていた須藤くんが洸姫の上着を手に回廊へと戻った。
それを見た玉彦は首を傾げたので、私は耳元で囁いた。
「天彦のね、誕生日プレゼントを買いに行くんだって。昨日、天彦も買って来たんでしょう? 洸姫のプレゼント」
「……そうであったか。そうか」
日付を跨いで生まれた双子の出生届はそのままの日付で提出した。
どちらか一方に合わせることもできたけれど、竹婆曰く生まれ持った星の運命があるのでそのままが良いと言われたのだ。
なので正武家では双子の誕生日は二夜連続で宴会が開かれる。
洸姫のお出掛けにお役目帰りの集団はそのまま離れの玄関へと移動し、私はしっかりと洸姫に上着を羽織らせマフラーを巻き、手袋もはめてお手製の毛糸の赤い帽子を被せた。ちなみに天彦は青色だ。
着ぶくれてまん丸になった洸姫は須藤くんに抱き上げられて、玉彦と私のほっぺにチューをする。
「暑いからってお外で脱いじゃだめよ? 走り回って転ばないこと。誰かに会ったらきちんとご挨拶するのよ」
「はーい」
短い腕を上げた洸姫の頬をさすって不意に涙が込み上げそうになっていると、玉彦の手が重なり二人で頬を包む。
「風邪などひかぬように。温かく。無事に帰ってくるのだぞ」
「はーい。父さまと母さまにもおみやもってくるね」
娘よ。持ってきちゃいかん。買ってくるのだ。
須藤くんと多門に連れられ車に乗り込んだ洸姫を裏門でみんなでいってらっしゃいと見送り母屋へ戻ると、天彦が押し入れを開けて布団の隙間に隠してあった小さな小箱を私に見せた。
どうやら昨日買って来た洸姫へのプレゼントのようで、大好きな赤い色のリボンが掛けられていた。
「何を買ったの?」
そう天彦に聞くと、てへへと照れ笑いをしてお揃いの箸置きだと教えてくれた。
先日お箸の持ち方を二人揃って褒められたので、箸置きを連想したのだろう。
この分だと洸姫も同じものを買ってくるかお箸を買ってくる可能性が高い。
いつだって二人は同じことを考えているのだ。
けれど。
洸姫が天彦の為に買ったプレゼントが何だったのか私たちは知ることはなかった。
そして天彦のプレゼントが洸姫に渡されることはなかった。
着の身着のまま。
須藤くんも多門も母屋に荷物を残したまま。
多門なんて洗濯物を溜め込んで、須藤くんはタブレットを充電したまま。
忽然と、去ってしまった。
豹馬くんも亜由美ちゃんも美影を病院へ連れて行くと告げたまま、家に帰らなかった。
お誕生日の一週間前。
一月の、良く晴れた日の午後だった。




