表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
286/335

2


 離れへと通じる渡り廊下まで歩き、よっこらせと天彦を下ろすと洸姫と並んでそこに正座をして、お仕事帰りの父さまをお迎えするのが日課である。

 父さまの帰りを今か今かと待ち受ける双子を見ながら、私は多門と会話する。


「そう言えば豹馬くんって今日お休みだっけ?」


「うん。休みー。あー……美影みかげが熱出したって言ってた」


「あー、亜由美ちゃんも大変だぁ」


 美影とは豹馬くん亜由美ちゃん夫妻の子どもである。

 双子とは同じ歳の学年違いの男の子だ。

 父親の豹馬くんとは違い、中々愛嬌のある子なので亜由美ちゃん似である。

 でも時たま半目になるのでやっぱり豹馬くんの血は確実に引いている。


「竜輝くんと須藤くんはお役目なのよね?」


「今日は巫女も出張ってるからね。須藤も呼ばれたみたいだよ」


 高校生で遅い反抗期を迎えていた竜輝くんは当初進学先を二年制の専門学校としていたが、三年生の春になって急に進路変更をして大学進学を決めた。

 何があったのか詳しくは聞かなかったけれどどうやら通山市にいる高彬さんが一役買ってくれたみたいだった。

 雅さんは以前言っていた通り早々に嫁に行き、何でも屋の人手がいることが絡んでいたらしい。

 そうして通山の大学に通いつつ週末は鈴白村に帰ってくるという玉彦の様な生活を竜輝くんは送っている。


 須藤くんと多門は変わりなく独身を謳歌し、あまり変わらない。

 巫女である香本さんも、離れの那奈も高田くんもだ。

 けれど三年前。松竹梅姉妹が鬼籍に入った。

 梅さんが春に、竹さんが夏に、そして長女の松さんが秋に。

 三姉妹は世に生まれた順に亡くなり、松さんは妹たちの後始末を生まれた時も亡くなる時も立派に果たして息を引き取った。

 彼女たちの大往生に鈴白村を始め、五村は悲しみに暮れたのだった。


「あ、父さまー」


「父さまー」


 離れの回廊に姿を現した玉彦を目にした二人は座ったまま出来るだけ大きく手を振り、父親の帰りを歓迎する。

 玉彦はついっとこちらに目を向けるが急ぐ素振りは見せず、ゆっくりと歩を進める。

 本当は出迎えられて嬉しいけれど、駆け寄ると父親としての威厳が台無しだと本人は考えているようで、母屋で着替え終わるまでは次代様モードなのだった。

 そんな玉彦の考えと全く正反対なのが当主で祖父の澄彦さんで。


祖父じいさまも帰ったよー」


「あ、じいさまー」


「じいさまー」


「良い子にしてたかい? さぁさ、じいさまのところで三時のおやつでも」


 と言って、座る双子を抱き込んだ澄彦さんの襟首を玉彦が摘み上げる。


「止めろ。まだ二時にもなっておらぬ」


「じゃあ二時のおやつをじいさまのところで」


 諦めの悪い澄彦さんは尚も双子をおやつで誘惑したけれど、天彦が抱きしめる澄彦さんを両手で突っぱねた。


「おやつは三時です!」


「三時三時ぃ!」


 天彦に続いて洸姫が囃し立て、流石の澄彦さんも苦笑いを浮かべてかいなを解く。

 甘やかすことだけは任せておけと胸を叩いていた澄彦さんだが最近は自立心が早くも目覚めた天彦に拒否をされがちだ。

 着替えにもたつく天彦の手伝いをと手を伸ばしても自分で出来ると過保護の手を跳ね除けるようになった。

 近頃は自分で出来ることが増え始めた天彦と洸姫は競い合うように成長をしている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ