第二十章『いってらっしゃい』
数え年というものを意識するのは、厄年を数える時だと私は思う。
天彦と洸姫が生まれ四年の歳月が過ぎ双子は数えで四歳、四回目のお正月を迎えて数えで五歳となった。
正武家的には誕生日を迎えて五歳となるそうだ。世間的には四歳の誕生日である。
双子が生まれた当初、数え年を失念していた私は洸姫と過ごせる時間はあと五年と勘違いしていた。
別れの日が近付いて来たと正月を終えた私は人知れず胸を痛める日々で、玉彦も口にはしないが天彦よりも洸姫と過ごす時間が増えたように感じる。
洸姫を稀人の三人と亜由美ちゃんに託し、笑顔で送り出すことが出来るのか私には自信がない。
泣いて泣いて走り去る車に追い縋るだろう。
そんなことばかり考えていた一月のある晴れた日の午後。
双子の誕生日まであと一週間と迫っており、私は色々と荷造りをしていた。
したくもない荷造りは遅々として進まず、溜息ばかりが出てしまう。
洸姫が気に入っているふかふかのフリースの毛布を抱きしめ泣く。
新調した春着を眺めては、着た姿を思い浮かべて泣く。
そんな感じでめそめそとしながら箱に詰めていると、天彦と洸姫が連れ立って部屋を覗き込んだ。
「母さま?」
「泣いているの?」
駆け寄って来た二人を両手で抱き留め、私は大きく息を吸った。
「泣いてないわよー。何回もくしゃみをしてしまって、鼻水が出ただけよ」
摂り繕った私に洸姫は頭を撫で、天彦はティッシュの箱を差し出す。
二人とも優しい子に育ち始めたと思う。
天彦はおっとりしているが頑固一徹な性格で、洸姫はこれでもかとやんちゃで口が達者だ。
父親と母親の性格を受け継いでいる様に思う。
二人は二卵性の双子なのでそんなに似てはいないが、正武家のしきたりで男の子も女の子もおかっぱ頭で着物なので似ていると言えなくもない姿だ。
天彦は父親の玉彦の幼い頃と瓜二つ、洸姫は私の幼い頃とよく似ていた。
二人とも成長すれば美男美女になるわよ、と自画自賛の親馬鹿ぶりを発揮してみる。
「母さまはまだこちらでしなくてはならないことがあるから、二人で遊んでらっしゃい」
「天彦、お手伝いします!」
「じゃあ洸姫も! じゃあ洸姫も!」
「そう? じゃあ一緒にしましょうか」
天彦も洸姫も何の為の荷造りなのか知らない。
なんともやるせない荷造りになりそうだと思いつつ新しい箱を組み立てていると、多門がひょっこりと顔を出した。
今日のお役目はそんなに忙しくなく午後の一件で終わりということもあり、台所番だった多門は当主の間には行かずに暇をしていたようだ。
「母さまー。ちょっと洸姫様を連れて行って良いですかねー?」
「私はあんたの母さまじゃないわよ。って洸姫だけ?」
「うん、そう。ねー、洸姫様?」
多門に声を掛けられた洸姫はハッとして天彦を見てから、ぶんぶんと頷き、差し伸べられていた多門の手を取った。
すると多門はスッと抱き上げ、二人で頬を寄せ合う。
これは二人で悪だくみをする前に良く見せる仕草である。
「なによ。なにするつもり?」
「買い物に。ほら、次代も昨日天彦様だけ連れて行ったでしょ」
「あぁ、そういうことね。わかったわ。でもちょっと待ってちょうだい。そろそろお役目も終わるだろうから、みんなで父さまをお迎えしなきゃだもの」
よっこらせと立ち上がって腰を伸ばし、天彦が私に両手を伸ばしたので抱き上げる。
もう抱っこをするのもしんどいくらい重いのだが、多門に抱っこされた洸姫への天彦の対抗心を感じ私は頑張る。




