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「それに比和子が現れたとはいえ、献上の約束を聞いたにもかかわらず一向に献上せずに身罷ってしまえば振り出しだ」
「そうよね。危ないところだったわ。ていうか、だったら巻物あるから揚げを寄越せってさっさと言えば良かったのに」
そうすれば私はもっと早くに揚げを献上したし、九条さんと正武家の顛末記を引っくり返して読み漁り、神守について調べる手間が省けたのに。
口を尖らせた私に玉彦の左手が久しぶりに頭を鷲掴んだ。
「それは自分本位の発言である。そも比和子が神守の者として御倉神と対話し、聞き出さねばならぬものぞ。神を持て成し恩恵を受けられる。至極尤もなことを疎かにし、不平不満を口にするとはなっておらぬ。以前も申したが神は神であり、人ではない。神と友人足り得るのは南天のような損得勘定無しの者であり、神を持成し恩恵を授かろうとする役割を持つ神守は慣れ合いの間柄にはならぬのが道理。重々心得よ」
「うっ……はい。ごめんね、御倉神」
私がそう言って対面していた御倉神の手を取ると、玉彦の左手に若干力が籠ったのでごめんなさいと言い直す。
感極まって私の手を握り返した御倉神だったが、彼の頭上にも玉彦の右手が襲い掛かった。
「そもそも揚げの献上くらいでおいそれと何でも引き受ける性根は神とは云え如何か。安請け合いにも程がある! 神ならば神らしく振舞えぬのか! 朝っぱらから、あまつさえ女人が肌を出しているにも関わらず、飄々と現れることはいくら神とて許されまいぞ! 重々憂慮されよ!」
「う、うむ。すまぬ。
……ゆるしてちょんまげ?」
いや、まぁね。意味はあってるけどもさ。ここでそれは言っちゃあダメよ、御倉神。
誰から教えてもらったのかしら。年代的に澄彦さんか宗祐さんかしら。
あぁでも二人は視えないから、南天さんかもしれない。
そんなことを考えていると、ぼわりと玉彦から蒼い炎が立ち昇った。
「神として威厳を持てぇーーーー!」
轟いた玉彦の叫びによって双子が泣き始め、何事かと駆け付けた多門は玉彦から余計なことばかり教えるなと飛び火の説教を喰らい、私は御倉神と身を縮込ませて手を握り合ったのだった。




