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「えーと……」
満腹になった洸姫のげっぷを出させるために一旦身体を寝かせていた状態から縦に抱き直し、背中をとんとんしながら思い出す。
御倉神と初めて出会ったのは中学一年生、白猿を迎え討つべく名もなき神社の拝殿で囮役をしていたとき。
白猿が拝殿に入り込み、玉彦が私を庇って腕を噛まれ、澄彦さんに首を斬られたのに白猿は息絶えずに玉彦の左腕に喰らいついていた。
澄彦さんが腕の一本くれてやれと玉彦の腕を落とそうとして私が止めに入り、騒がしいと言いながら登場したのが御倉神だった。
御倉神に猿彦と呼ばれ、終いを告げられた白猿は消滅し、玉彦も助かった。
そこで御倉神は私のお父さんが、子が揚げをくれると言ったとかなんとか言って、私に揚げを寄越せと催促し、私は南天さんに頼んで揚げを用意してもらったのだ。
それから……そう、それから表門の石段にて玉彦とお別れをして御倉神に嫁になるかと連れ去られそうになり、けれど澄彦さんが提案した一日置きの厚揚げという条件を飲んだ御倉神は私を解放した。
そこから数年会うことが無くなり、通山の実家に突然現れたのが高二の夏。
一応私が揚げを買っては来たけれどお父さんが御倉神の相手をしていた。
「あ、あれ~……?」
げっぷを出し終えた洸姫をお布団に寝かせ、大人しく順番待ちをしていた天彦を抱き上げて乳を含ませる。
出会いから順を追って思い出しても、私が御倉神に何かを献上した覚えがない。
本殿で御倉神を持成したのは私だが正武家が用意した品々。
同じく新田さんの子どもの件でお昼に御倉神と蘇芳さんが乱入したことがあったけれど、取り皿に取り分けたが重箱の中身は南天さんが作ってくれたもの。
そもそも、だ。
正武家の敷地内で御倉神に振舞われたものはあくまでも澄彦さんと御倉神との間のお約束であり、私は関係が……ない、ない!?
私は中一のあの時に御倉神との約束は果たしたと思っていたが、御倉神の反応を見るに実は果たされていなかったらしい。
いやでもそれにしても。
これだけ何度も御倉神が正武家で揚げを食べているところに同席し、時々はプリンだって食べさせてあげていたのに揚げを献上しろって、そこんとこの拘りが引っ掛かる。
もやっとして言葉にしようとすれば霧散してしまいそうな考えが頭に浮かびそうになる。
うとうとしている洸姫の頭を撫でている御倉神の袖を私は軽く引く。
「ねぇ、御倉神。献上する云々って私との約束じゃあないわよね?」
私がそう聞くと御倉神はこちらを見ずに洸姫に目を優しく細めた。
「もし乙女が果たさぬならば、次の子が果たすことになるやものー」
質問とはズレた返事だったけれど、私の中でスッと一本道筋が通った。
「次の子って、誰のことを言ってるの?」
天彦は正武家の跡取りだし、洸姫は私が正武家に嫁入りをしたことから上守の直系からは外れる。
なのに御倉神は天彦と洸姫に目をやり、この双子、という。
これではっきりした。御倉神との約束は神守としてじゃなくて……。
「光一朗の子。乙女であり、乙女が果たさぬならば乙女の子。光一朗の子々孫々が果たせばわたしは不服はない」
子が揚げを献上するという約束は、御倉神と上守光一朗の間で交わされた約束だ。




