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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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10


 いつものことながら正武家の朝は早い。

 子どもが生まれても玉彦は朝の修練を欠かさず、朝の六時に目覚めるモンスターズに邪魔をされないように稀人たちは修練後すぐにお屋敷の雑事に取り掛かる。


 そして私は朝だけは一人きりで授乳する。

 肩にバスタオルを掛け洸姫を抱き上げ乳を含ませていると、大人しく順番待ちをしていた天彦がへへへと笑い出す。

 朝からご機嫌のようでなによりだ。

 最初は毎度いきなり笑い出す天彦に驚き、視えない何かにあやされて笑っていると危惧したけれど、南天さんと調べた結果、ただの笑い上戸に落ち着いた。


 数えで七つまで神様に近い存在の子どもは不可思議なものが視えてしまいやすいからもしかして天彦は、と考えたけれど正武家の跡取りなので視えないようだ。

 幼少期の記憶が鮮明な玉彦も視えたことがないと言っていたし。

 対して洸姫はたまに視えてるっぽかった。

 順番が待ちきれずに泣きだした時、たまに火之が姿を現しあやしてくれる。

 火之は双子は自分の弟妹だと思っているのでお兄ちゃんとして頑張ってくれていた。

 ただちょっと居た堪れないのは、洸姫は火之を認識できるけれど天彦は私が触れてからじゃないと認識できないようで、天彦に無視をされがち。

 泣きだした天彦を火之が懸命にあやしても視えていないから報われないことが多く、そんな時にかぎって私は洸姫を抱いているので天彦に触れられない。


 なので私は火之の為に最近技を編み出した。

 正座をして授乳するのではなく、足を伸ばしてその間に天彦を挟む技である。

 特に一人で授乳する朝はこの格好でいることが増え、修練から戻って来た玉彦が何事だと慌てたのは記憶に新しい。


 そんな朝の日常に今日は御倉神が姿を現した。


 おかしな格好で授乳している私に構わず御倉神は足に挟まれた天彦を覗き込み、両手で頬を包みこんで柔らかさを堪能してから私の隣に腰を下ろして肩に頭を置く。

 片乳を出している時に玉彦以外の男の人が現れたら悲鳴を上げる案件だが、御倉神は神様で、元々は女神なので私の危機感は全くない。

 御倉神の方も全く頓着していないので、神様ってそういうものなのだろう。


「おはよう。御倉神。昨日は揚げの日だったんでしょ。今日はどうしたの」


 洸姫の小さな足をにぎにぎしていた御倉神はなぜか私を恨めし気に見つめた。

 え、なんだろ。


「乙女はいつになったら」


「うん?」


「わたしに揚げを献上するつもりか」


「はっ!? いつって、はぁっ!? ……はぁっ!?」


 この神様はこれまで正武家屋敷でたらふく食べてきた揚げを何だと思ってるのか。

 私が中学生の時からだから十年以上も食べている。

 二日か三日に一度、御倉神が忙しくてお屋敷に来られない時も台所には揚げが用意されていた。


「いつって、あんた昨日も食べたでしょ!」


 食い意地が張っているのかまだ空腹なのか、もっと寄越せと言っているのかな。

 まぁ毎日稀人の手間はかかるかもだけど、揚げを毎日御倉神に用意するのは正武家の財政上何も問題は無い。

 あとで南天さんと打ち合わせをしなくては。


 私に昨日食べたと指摘された御倉神はふるふると首を横に振って、まるで私が鈍感だと言うように深く溜息をいた。




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