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お昼の一時過ぎにお屋敷に戻った私は母屋にて親子三人のお昼寝を確認し、澄彦さんの母屋へと足を向けた。
今日はお役目はお休みなので、澄彦さんは母屋でのんびりとしているはずだ。
午前中は孫たちと遊び、孫が寝てしまえば自分も母屋に退散して寝るというのが最近の流れである。
いつも寛ぐ部屋の前で片膝を付くと、まだ声掛けもしていないのに襖の向こうから澄彦さんがお入り、と私を誘った。
「失礼します」
少しだけ緊張しつつ中へ入ると、紺の着流しの澄彦さんは縁側でうつ伏せに寝そべり、頭を庭へ向けていた。
威厳も何もなく、孫と遊び疲れたお祖父ちゃんである。
孫たちが生まれて澄彦さんが玉彦と私に宣言をした、可愛がる手伝いはするがその他は一切手伝わない、嫌われることは特に絶対に協力しないし、躾等々には関わらない、を忠実に守っている。
私たち夫婦の育児方針が舅の一言でぶれないことは良いことなのだが、宣言までされるとどうかとも思う。
「澄彦さん。お伺いしたいことがあるんですけども」
後頭部に話し掛けるとよっこらせと顔だけ私の方に向ける。
体勢はだらしないが、向けられた顔には眠気を感じている様子は見られなかった。
「なんだい?」
「捜し物をしているんですが、どうやらお父さんが関わっているみたいでして」
私がそう云うと澄彦さんはしばらく私を無言で見つめ、再び顔を庭へ背けてしまった。
「あの、澄彦さん?」
「ズルはいけないよ、比和子ちゃん。それは神守の君が自力で捜さないとさ」
「……まだ神守に関するものだって私、言ってませんけど?」
「……あっ。何だか眠たくなってきちゃったなー」
これは絶対澄彦さんは知っている。そして絶対教えてくれないパターンだ。
しかし疑問なのは私に神守の能力開発を九条さんと促していた澄彦さんが書の存在を口にしなかったことだ。
澄彦さんはお父さんから神守について私が何か捜し始めたら放って置けとでも言われたのだろう。
書があれば新たな能力が手に入ると話せばあるいはだけど、お父さんが澄彦さんに話していないのなら話してはいけないものなのかもしれない。
粘っても徒労に終わるのが目に見えていたので私は早々に澄彦さんの母屋を後にする。
お昼寝中の三人の邪魔をするのも気が引けた私はその足で台所に顔を出せば、そこには今日のお料理番の多門と御倉神の対応で休日出勤になっていた南天さんがテレビを観ながらじゃがいもの皮むきをしていた。
澄彦さんがダメなら南天さんだ、と思ったが南天さんが簡単に口を割ってくれるとは思えない。
よくよく考えればお父さんが高校を卒業した時に南天さんはまだ小学生だし、それからしばらく五村に近寄らずにいたお父さんと南天さんがそういった込み入った話をするとは思えなかった。
「今晩の献立は何でしょうかねー」
チラリと見たテーブルには玉ねぎやニンジンがあったのでお手軽なカレーかシチューかな。
「おかえりー比和子ちゃん。今日は肉じゃがだよー」
「あ、そうなんだ」
予想が外れたとちょっとカレー気分だった私はがっくりと椅子に座って、懐からさっきの紙を取り出す。




