表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
275/335

5


「でべそって久しぶりに聞いたわ……」


 ちなみに私のお母さんはでべそではない。


『比和子?』


 玉彦の気遣わし気な声に意識を戻し、梁を見渡してももう紙は無いようだった。


「帰ったら話すわ。とりあえず私じゃないと視えないし、南天さんの手は借りなくても大丈夫だと思う。お祖父ちゃんの家に寄ってから昼前には一度帰るわね」


『相分かった』


 そうして玉彦との会話を切り上げ、再び私は本殿内を眺める。


 お父さんは御倉神が視えていた。

 なので不可思議な者も視えていたのだろう。

 それと私が造り上げた現実世界のような神守の世界で自我を保ち、玉彦が待っていると教えた。

 そして崩壊寸前の世界でお父さんは玉彦に九条さんや私ですら知らなかった神守の眼の継承される条件を口にしていた。

 神守の眼を持っていたなら視えたり自我を保つことが出来たのは不思議じゃない。

 でも継承される条件をお父さんはどこで知ることが出来たのか。


 答えは一つしかないだろう。

 常人では視えない神守の書を読んだから、だ。

 だからあんなくだらない紙を試しに作ってみたのだ。書を参考にして。

 ということは書には神守の者ならば活用できる簡単な力の使い方が書かれているってことだ。


「これは何が何でも手に入れなくちゃじゃないの」


 本当に久しぶりの、そして危険が伴わない不可思議な事案に私はワクワクが止められなかった。


 それから一時間。


 私は本殿内を歩き回り、拝殿も捜索、あれから紙は五枚見つけたがどれもこれも人を小馬鹿にするような言葉ばかりでいっそのことここで神守の眼を発現させてお父さんを呼び出してやろうかと思ったが、流石に久しぶりに使う眼だから誰か他の人もいるところの方が良いだろうと思い留まった。


 手にした紙に目を落とす。


 『残念無念また来年!』『顔を洗って出直せ』……。


「……ムカつくわー」


 紙を並べ替えて頭文字を読めば書の在処が記されているなんてお宝要素の欠片もない紙を握り締め、私はお腹が空いてきたのでとりあえず名もなき神社を後にした。


 捜しきれていない場所もあったけれど、落ちた自分の体力では眼の力が維持できないことを痛感した。

 九条さんが言っていたように日々の精進が必要なのだろう。

 収穫がお父さんの落書きのみだけれど、ひとまず近代まで書があったことが確認出来たことは上出来だ。

 あとは捜し出すだけなので、地道に捜そうと思う。

 子育ての合間合間に時間を取って名もなき神社に通えばそう遠くない将来に見つかるだろう。


 山道を下り、お祖父ちゃんの家の前を通ると丁度お昼を頂いていたようで、開けっ放しの縁側から皆が見えた。

 このまま通り過ぎるのも爺不幸者だと思い、庭から顔を出せば近くに座っていたお祖母ちゃんがすかさず立ち上がり、冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに注いで私に手渡した。


「ありがとう、お祖母ちゃん」


 牛乳を飲んだからってすぐに乳の出が良くなるって訳じゃないが、有り難く頂戴する。

 一気飲みするとお腹が下ってしまうのでちびちび飲んでいると、お祖父ちゃんが爪楊枝をしーしーしながら私の方へ身を捩った。


「裏山に行ってたんか」


「うん。ちょっと捜し物があってね。そうだ。お祖父ちゃんってさ……」


 変なモノ視える? と聞こうと思って私は浮かんだ疑問に言葉を止めた。


 現在名もなき神社を守るのはお祖父ちゃんと光次朗叔父さんだ。

 光次朗叔父さんは兄が村を出てしまったので順当に役割が振られたパターンで、先に長子である兄が眼を発現したので視えない人。

 そんでもってお祖父ちゃんは三郎という名の通り、三男。

 お祖父ちゃんの時代の長子は視える人間だったのだろうか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ