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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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4


「どういう仕組み?」


 紙自体があやかしというわけではないだろう。

 曲がりなりにも神社の本殿である。

 眼で視えるということを素直に考えれば、私よりも前の代以前の神守の者の仕業である。

  私が捜している普通の人間では視ることの出来ない神守の書と同じ細工がされていると考えて間違いない。


 これで一歩、書に近付いた。と思うのだが。

 どうしても私は違う意味で嫌な予感がして、着物の懐からスマホを取り出し耳にあてた。


 数回のコールで呼び出しに答えたのは玉彦で、向こうでは洸姫が絶賛大泣き中だったようで玉彦の声よりも泣き声の方が先に聞こえた。

 廊下に出た玉彦はまだ私が何も言っていないのに「心配には及ばぬ」と話し、かなりテンパった様子が窺える。


 お腹が満たされおむつも濡れていなく、眠たいだけのようなら多少は泣かせておいても大丈夫だと竹婆や東さんから言われていても、双子が泣けば玉彦はすぐに抱き上げ泣き止ませようとするのだ。

 天彦の場合は単純なのですぐ泣き止むけれど、洸姫は泣けば抱き上げてもらえると覚えたようで、私や多門よりも玉彦や須藤くんの前で意味もなく泣き始めることが多くなった。

 また洸姫に騙されてるな、と思いつつ私は玉彦に一つ質問を投げかけた。


「あのね。ちょっと教えて欲しいことがあるのよ。記号っていつの時代から使われているのか知ってる?」


『記号? ……比和子、何をしている』


「え? 名もなき神社にいますが何か」


『本日はゆるりと外で過ごせとあれほど。……まぁい。それでなぜ記号なのだ』


「本殿のはりに矢印が書かれた紙が貼ってあるんだけどね、普通じゃ視えない紙なわけ。でもって神守は何代か前に正武家から任を解かれたって話があったでしょう? 神守なのにあまり視えなくなったからって。だからね、いつの時代の神守が書いた矢印なのか知りたかったのよ。少なくとも視えてちょっとした細工が出来るレベルの神守は何代前くらいかなって」


『記号はそれこそ象形文字も記号で出来たような文字であろう。しかし矢印が現代のような意味合いで使われ始めたのは二、三百年ほどだったはずである。日本に伝わったのはそれ以降であろうな』


「ということは百年くらいは前ってことかな……」


『まさかとは思うが……どの様な紙に、何で書かれている』


「普通の紙に、サインペンで……ってああああああっ! ……ありがと、玉彦。分かったわ」


『面倒事になる前に一度帰宅せよ。先ほど南天が御倉神の相手をしていたようである。もし犯人がかの人物であるなら南天が一役買うであろう』


「犯人って。私のお父さんですけど」


 人の父親を犯人呼ばわりとは失礼な、と思いながらふと右方向の矢印に釣られて右を見れば、だ。


 その先の梁にも紙が一枚貼ってあり「馬鹿が見る~。豚のケツ~。お前の母ちゃんでべそ」と書かれていた。


 私の母ちゃんがでべそならあんたの奥さんもでべそだよ!



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