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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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3


 名もなき神社は鳥居から見ると比較的こぢんまりとしているように感じられるが、拝殿や本殿は縦に細長く、正面からその大きさを推し量ることは出来ない。

 しかもどういった理由なのか通常の神社とは色々と造りに違いがあって、『神社』としておおやけに認められていないのも然もありなんといったところ。

 鳥居があって手水場があって、お参りも出来るし拝殿も本殿もあるのだが、何かが神社ではないようなそんな違和感を覚えるのだ。

 上手く言えないけれど、そう、例えば正武家のお屋敷に鳥居を設けてそれっぽい手水場を設置し、離れが拝殿で母屋が本殿ですよ、と言っているようなそんな変な感じがするのだ。


 でもだがしかし。

 鳥居を通れば神域独特の空気感がある。

 一応拝殿に向かって参拝できるように階段もあるし、小さいけどお賽銭箱もあったりする。

 名もなき神社は神守が勝手に造った自称なんちゃって神社が本当の姿なんじゃないのかと思うこともあるが、御倉神が居たりととりあえずは機能しているので神社と名乗っても怒られない。のかなぁ。


 突入した本殿内をぐるりと歩いても何も視えなく、やっぱり拝殿だったのかも、と思って私はいややっぱり本殿だろうともう一周する。


 なぜ拝殿を捜索範囲としなかったのか、それにはきちんとした理由がある。

 拝殿は今からおよそ十年程前に壁や床などの板を総入れ替えしたのだ。

 そう、白猿を討ち取ったのはこの名もなき神社の拝殿だった。

 細長い造りの拝殿の奥の奥、本殿へ一番近い拝殿の一画の部屋に私は籠っていた。

 中学生の玉彦や御門森の外戚の面々、それから須藤一族の関係者などが山中から白猿をここへと追い立てたのだ。

 白猿の最期は首を澄彦さんに落とされるという凄惨なもので、血飛沫や暴れて破壊された戸板や壁などは全て穢れとして焼かれ、新たに改築し直されたのが今の拝殿だ。


 もし拝殿に書があって、改築された時に誰にも視えないものだから壊れた板となどと一緒くたにされ焼かれてしまったのならば諦めるしかない。

 逆に言えば拝殿は改築されていない箇所のみ捜せば良いので範囲はかなり限られる。

 今日のように許されている自由時間が長い時に一気に本殿を捜し、短い時間しかない場合は拝殿を少しずつ捜せば効率は良いと思う。

 そんな訳で本殿に突入した私だったが、眺める範囲には何も視えず、屋根裏なども捜索範囲に加えるべきかと天井を見上げれば。


 ぴらぴらと手のひら程の大きさの紙がぶら下がっていた。

 本殿に入り奥へ進み、振り返ってようやく見える天井というか本殿のはりにくっついている紙に手を伸ばしても私では届かなく、飛び跳ねても手に出来る気がしない。

 真下から数歩下がってとにかく何が書かれているのか確認しようと再び見上げる。




『→』




「??????」


 矢印!? え、矢印ってなんなの!?


 何かの冗談かと目を擦ってもやっぱりそこには右方向を示す矢印があった。

 試しに全開にしていた眼の力を抜けば……矢印が書かれた紙は視えなくなった。



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