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手前に横になっている私から奥側の赤ちゃんたちに目を向けた玉彦は無の表情で静止し、座敷はなぜか固唾をのむ。
これは、あれだ。パンダのお母さんが双子を産んで片方は自分でもう一方は人間の手である程度育て、時折子どもを入れ替えて自分の子どもと受け入れてくれるかを見守る飼育員さんの気持ちだ。
「触れても?」
「い、いいわよ」
袖を押さえて玉彦が腕を伸ばすと、触れる瞬間に赤ちゃんの顔がぐにゃりと歪み一人がふえええっと泣きだすと隣も釣られて泣き出してしまった。
なんてタイミングの悪い……。
固まる玉彦の腕をよけて起き上がった私は座敷にいた澄彦さんら男性たちに部屋から出てもらうように告げ、玉彦の肩に手を置いた。
「おっぱいの時間だから。たぶん」
「そ、そうか」
「驚いてとか嫌がって泣いた訳じゃないから大丈夫よ」
「そうか」
かくかくと頷いた玉彦を尻目に私は肩を出して最初に泣き始めた子を慎重に抱き上げた。
授乳をする順番は長子だから次子だからではなく泣き始めた子から、と決めていた。
分け隔てなくを実践するのは簡単なようで難しい。
乳を含ませる様子をじっと見つめる玉彦の表情はやはり無だったけれど、これは極度の緊張からで不機嫌だからではない。
「抱っこしてみる?」
「あとで、落ち着いてから」
「お腹いっぱいになったら大丈夫だと思うけど」
「首が座ってから」
「いつまで待つつもりよ……」
「抱くと潰れて死ぬ」
「そんなわけあるかっ」
私たちのやり取りを後ろで聞いていた夏子さんと紗恵さんは玉彦のビビり具合に苦笑いを零した。
「男の人はみんなそうやって怖がりますからねー」
手慣れた様子で夏子さんは玉彦に失礼しますと言って、彼の右腕を掴み固定させ左腕も添わせるようにセッティングをする。
「そのまま、そのままですよ。玉彦様」
そう言って夏子さんは落ち着きつつある子ではなく、ぎゃん泣きする子を抱き上げる。
それはちょっと玉彦にとってハードルが高すぎる……。
しかし私の心配をよそに夏子さんが玉彦の腕にそっと赤ちゃんを抱かせれば、ようやく我が子を実感した玉彦が破顔した。
「なんと軽く、儚い」
率直な意見を呟いた玉彦にホッとする。
「それでもその子はね、こっちの子よりも百グラム重いのよ」
「大丈夫なのか」
「これから徐々に増えていくから心配ないって東さんも言ってたよ。南天さんも同じくらいの重さで生まれたんだって」
「そうか。そういうものであるのか」
話しながら授乳を終わらせ、玉彦が順番に赤ちゃんを抱っこしてその後は夏子さんと紗恵さんに赤ちゃん二人を任せて、私は身形を整えつつ座敷を見渡す。
産屋で私が頑張っていた頃、玉彦たちはここで待機しており、膳や毛布などがそのまま放置されていた。
その中にひと際気になるものがあり、私は指をさした。
「あれってもしかして?」
「あぁ、そうであった。ここで待て。動くなよ」
私から離れた玉彦はさささっと畳に散らばった半紙をかき集めて戻ってくると、私の膝の上に数枚並べる。
一玉、二玉。
玉美、玉子。
比玉、和玉。
あまりにも衝撃的なセンスの無さに、私は絶句した。




