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新生児の胃はさくらんぼ一個分。と教えてくれたのは竹婆。
初乳を終わらせた私は寄りかかっていた壁から離れ、用意されていた大きなお布団で横になった。
赤ちゃんたちも私のお布団に寝かされ、今は目を閉じていて反応はない。
胸は上下しているので生きてはいるが、起きているのか寝ているのかわからなかった。
こんなに静かで大丈夫なのかな。もっと泣いてくれた方が生きてるって分かるから逆に安心できるんだけどな。
二人の寝顔を眺めながらまだ痛みの真っ最中の下腹部を摩る。
皮膚のたるみはともかく、見事にぺったんこになっていた。
膨らむ前は大きくならないと心配し、大きくなるとはち切れそうだと不安になったりしたが、いざ出て行かれてしまうと何とも言えない寂しさだけが残った。
竹婆と東さんに測ってもらった二人の体重は二千二百グラムと二千三百グラム。
双子の体重は一人で生まれる新生児よりも少ないことは分かっていたけれど、二週間も早く生まれてしまったから予想よりもずっと小さい。
せめてあと一週間あれば百グラムずつくらいはお腹の中で増やしてあげられたのに。
「小さいなぁ……」
すっかり涙脆くなってしまって鼻を啜ると東さんが私の枕元に座ってにっこりと笑った。
「豹馬は三千超えでしたけれど、南天は二千半ばでしてねぇ。でも今は大きく育ちましたでしょう? 大丈夫、赤ちゃんは小さくて当たり前ですよ。ですよね? 竹様」
「うむ。すこうしばかり早かったが何も問題はないですぞ。さてそろそろ母屋へ行きますかな」
竹婆は立ち上がってうーんと腰を伸ばし、香本さんに産屋の片付けの指示を出す。
東さんは産屋の外で待っていた稀人たちに声を掛けて、私と子どもたちが母屋へ移動することを伝える。
そして私はといえば大きなお布団で母子共に寝ている。
お布団の下には三畳ほどのしっかりとした板があり、産屋の扉を観音開きにして板に乗ったお布団ごと運ばれる予定だ。
ただ外は真冬の寒さなので、私たち三人の上にはかぱりと木箱のようなものが被せられる。
簡単に言ってしまえば、寝られるサイズの御神輿みたいな感じ。
香本さんに木箱を被せてもらい暗闇の中で耳を欹てていると、産屋の扉が解放されズズズッと板が動き出す。
扉のところで稀人たちが板を手繰り寄せているようだ。
それからふわっと浮遊感があり数歩進んだあと、再びズズズッと引き摺られる。
どうやら無事に母屋に運び込まれた私はまだ室内は見えていないけれど、家に帰って来た感じがして猛烈な眠気に襲われそうになって大きく欠伸をする。
「比和子。開けるぞ」
珍しくきちんと私に開けるぞと確認をした玉彦の口ぶりは緊張感が溢れていた。
「はい。どうぞー」
初めての対面。
玉彦は一体どんな反応をするのだろう。
足元からゆっくりと木箱を持ち上げてくれたのは須藤くんと多門で、頭の方は南天さんと豹馬くんがしっかりと二人で支えて箱を横に置いた。
あと数時間で明け方になる室内は淡い蝋燭の炎が数本だけあり薄暗かったけれど、座ったまま私の方へ身を乗り出した玉彦の顔はしっかりと見えた。
いつものように温かい手が労わるように何度も頬を撫でる。
「無事で何より」
「うん」
なんか、ちょっと反応薄くない!?
泣いて喜んでくれとまでは言わないけれど、まったくの普段通りの感じに私は不安を覚えた。
「竹、東、香本。大儀であった」
玉彦の感謝の言葉に三人は頭を下げて、一旦休憩すると言って部屋を出て行く。
もし赤ちゃんたちが泣きだしてしまったら夏子さんと紗恵さんがお手伝いしてくれるようだ。




