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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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13


 五村の意志によって淘汰されるという双子の片割れ。

 この多数決がジャッジされたのは多津彦多次彦の時代。

 それからずっと何百年も『正武家の双子は凶兆』と言われ続けてきた。

 その何百年もの間に五村では人が生まれ死んでいった。

 ということは『双子は凶兆ではない』という五村の意志を変えるために何百年、もしくは多数決を覆せる人間の数が必要。


 お正月に会った鈴彦が凶兆とされる謂れが遠からずなくなるかもって言っていたのはこういうことだったのか。

 現代で双子が凶兆だと知る人は少ない。原因となった白猿が討伐されたことにより、知らない人はもっと増える。

 でもそれは今この時じゃない。


 私の分かり切った質問に彼は一度だけ頷いた。

 やっぱり、と思うけど未来は明るいとも思えた。

 もしこの先正武家に双子が産まれても外へ出さなくても良いように、私たちの子どもたちが前例になれば良い。

 双子は凶兆ではない、と。


 胸のつかえが一つ取れたように私は正していた背が丸くなった。


「それでさっきの女性たちですけど。あれも意志ってどういう意志なんですかね」


「あれか? あれは妬む意志だと申したであろうに」


「しょうもない……」


 とどのつまり正武家の人間を好きになった人たちの集まり。

 首が無いのは今はもう他の人に気持ちが向いているからなのだろう。

 けれど嫉妬という感情は五村の意志に一度は組み込まれてしまったから、しょうもないタイミングで現れる、と。


「あれも無くすことは出来るんですかね」


「あれは無くならぬよ。あれは試す者。我らが五村に住まい、嫁を娶るにあたり各村から嫁が選出されるしきたりが無くならぬ限り、な」


「それは無くなりそうもありませんね……」


 けれど時代は変わっていく。自由恋愛が普通になったように、正武家もまた選出された花嫁を娶らなくなれば五村の意志も変わってゆくのだろう。

 五行の力により成り立つ五村の意志という土地で生まれ死んでいった人々の意識の集合体。

 いつか正武家の子孫が五村から出られる日が来ると私は思っていたけれど、数百年も掛けて五村に居ると思われていることによりこの先も解放されることは無いのかもしれない。


 悪意のない呪いのようなものだと私は思った。

 五村の地に人がいる限り、そして山々に住まうあやかしたちがいる限り。

 もし彼らが全員土地を去ったとしても五村の意志は在り続け、残された正武家の人間の解放されたい願い、思いが多数決を上回ったときに解放されるのだろう。

 途方もない年月。それ以前に五村の地から人が居なくなることは無いだろうし、もう半永久的だ。

 それこそ地球や日本が滅びないと。


 聞かなきゃ良かったような絶望を覚えつつ彼に目を向けると、肩を竦めて腕を組む。


「不自由はない。出られないと聞けば出たくなるものだが、一人でも地に残れば出られる。そもそも出たい理由がない。帝の元へ帰ってもうつつでは職がない」


「でも」


 いつか都に戻ることを目標に玉彦や澄彦さんは日々を過ごしているはずで。

 自分の世代では無理だけどずっと後の子孫は解放されると信じているはずで。


「先程も言ったであろう。後のことは後の者たちがどうにかすれば良いのだよ。今を生きる者は今を大事に生きるだけだ。なるようになる。それだけだ」


 そう言われてしまっては身も蓋も無い。

 確かに今、足掻けることはない。精々村民の数を減らすこととか意識改革だけれど、結果が現れるのはずっと先のことだ。


 うーん、と私も腕を組めば、手を伸ばした彼に頭を撫でられる。




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