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『夏休みしか村に居なかったくせに』
『ずっと玉彦様から離れていたのに』
『ちょっと可愛いからって調子に乗り過ぎ』
『一人だけ制服が違って目立ちたがり。進学特化にだってコネで転入したんじゃないの?』
『稀人様に色目使ってたよね』
『田舎の女が正武家くんの婚約者とか有り得ないんですけど』
『花嫁修業してない女がどうして選ばれたの?』
『顔だけ。性悪』
主に嫉妬からくる罵詈雑言が四方八方から聞こえてきて、私は痒くも無い鼻をほじった。
「でも玉彦は私が良いって言うんだから仕方ないでしょ。そういう文句は私じゃなくて玉彦に言ってちょうだい」
誰にどんなことを言われようが玉彦と私の関係は私たちだけが築くもので、外野にどうこう言われたって変わらない。
高二の時からこういった陰口は言われ続けてきた。時にはこれ見よがしに聞こえるようにも言われたけれど、そんなことで凹んでなんかいられなかった。
当時は陰口よりも九条さんとの修行で一杯一杯だったし、何より誰に何と言われようとも玉彦が私を想ってくれていることが紛れも無い事実だったのでへっちゃらだった。それは今も変わらない。
そう考えると、正武家の彼らが伴侶をお屋敷から出したがらない理由がなんとなくわかる。
世間の余計な言葉に伴侶を晒させたくないのだろう。
彼女たちの言葉に全くダメージを受けていないと判断した意志は片手を上げて罵詈雑言の嵐を静める。
次はどんな手で私に揺さぶりを掛けて来るのかと窺っても何分顔が無いので良く解らない。
『双子は凶兆。それを宿したそなたもまた凶兆だと思わぬか』
そう来たか。結構痛いところを突かれた気もするけれど、そのことについてはもう皆で笑い飛ばしたから別にって感じだ。
「思わないわ。多津彦多次彦が原因で双子が忌み嫌われていることは知ってる。でも彼ら以前に産まれた双子もいたわけでしょう? その時には凶兆だって言われてた? 言われてないわよね? 白猿はもう数年前に討伐された。何百年も掛かってしまったけど解決出来ないことじゃなかったわ。それに私たちの双子はそうならないように育てる。ていうか逆にお願いしたいけど、双子だからって五村から片割れを追い出すような真似をしないでくれないかしら」
正武家の跡継ぎではない方の子どもは五村の意志によって淘汰されてしまうと聞いていた私は、良い機会だとお願いをしてみた。
『それはわたしの範疇ではない』
しかし返ってきた言葉はにべもないものだった。
範疇ではないってどういうこと?
死装束の女性は五村の意志が顕現した姿だと思っていたが違うのだろうか。
でもお竜さんが教えてくれた内容と照らし合わせると絶対に五村の意志だと思うんだけど。
私が今対峙している者は一体。
「あんた、誰なの?」
『消えろ。死ね』
張本人が目の前に居るので考えるよりも訊ねた方が早いと思った私は聞いてみたが見事にスルーされた。
「消えないけど。死なないけど。ていうかこんなことが私を呼び出した用事ならさっさと解放して。くっだらない」
『……そなたのような粗野な者に育てられる子が不憫でならぬ。子を二人育てるにあたり充分な乳が出るのか。充分な世話が出来るのか。他の者の手を最初から当てにしているような甘ったれた者に母は務まるのか。正武家の母たるもの、彼らの手を役目以外で煩わせるのはいかがなものか。稀人様は小間使いではないぞ」




