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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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6


 正面左右に座する少女たちを見て、私は嫌な予感しかしない。

 わざわざ真ん中を空けているということはそこにまだまだ誰かが現れるということだろう。首なしの誰か。

 少女たちの見えない頭部は黒い靄で見えなくなっているのではなく、最初からすぱんと斬られたように存在していないようだ。

 数メートル離れて座っているので首の断面が見えないのが救いだ。


 次に現れるのはどんな首なしかと構えていると、夕闇の奥から歩いて来たのは美山高校の制服を着た少女数人。

 右端の私服の少女の隣にこちらを向いて正座する。


 この子たちは何を訴えたくてこの場に集まってきているのだろう。

 訴えるにしても首が無いので口もなく、どうするつもりかな。


 不可思議な空間で不可思議な者たちと相見あいまみえて、出産の不安の方が勝っている私はすっかりこういった事態に慣れてしまったようだ。

 怖い恐ろしいという感情はとうの昔に無くなり、どういった理由でこんな事になっているのかと解決に向けて冷静に頭が働く。

 あと数年もしたらテレビの怪奇番組を楽しめなくなりそうだ、と少し笑えた。


 女子高生の次は何となく予想していた通り、年代が進み、大人の若い女性たち。

 左右に分かれて座っていた彼女たちの真ん中はまだ一人分のスペースがあり、最後にこの事態を引き起こした真打が登場するのだろう。


 一体どこのどいつがこんな時に来るんだと思っていたら、私の正面の奥にぼんやりと白い影が浮かび上がった。

 ひどくゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる人物にはやはり首がない。

 そしてお役目へ向かう正武家の人間のように死装束のような着物の女性だった。


 あぁ、ヤバい。


 と、私は居住まいを正す。

 月子さんの話によれば出産のその日の朝にその声は現れたはず。

 私の出産にはまだ二週間もあり、今朝に兆候は見られなかった。

 だから違うかもしれない。

 けれどお竜さんは『女子おなごの戦い』だと言っていた。

 戦いと云う割りには月子さんには嫌がらせのように囁くだけだったのに、どうして私はこうなった。

 月子さんとお竜さんとの違い。私とお竜さんに共通すること。それは惚稀人であるかそうでないかだ。

 お竜さんは鈴彦と共に人柱になったけれど、不可思議な力を持っていたとは聞いていない。

 囁くだけの嫌がらせに敗けるはずがないと構えていた私だけれど、まさかこんなに大勢の女性に正面を切って死ねと責め立てられるのかと思うと……うんざりした。


 正直ぶっちゃけ面倒臭い。

 恐怖は全くない。むしろ人がしんみりずーんと落ち込んでいる時に狙ったかのように現れて、ちょっとかなりムカつく。

 沸々と湧き上がるこの感情は、小町との口喧嘩が始まる直前の怒りに似ていた。


 お役目着の女性は綺麗な所作で座ると、頭部は無いけれどすっとこちらに視線を向けたことが分かった。ので。


「ちょっとあんた。一体どういうつもりで私をこんなとこに呼び出したのよ。こっちはね、あんたたちに構ってるほど暇じゃないのよ。もう少しで子ども産まなきゃだし、こんなとこで体力を消耗してる場合じゃないわ。くっだらない理由だったらしばき倒すわよ」


 先制パンチを喰らった女性たちは口が無いのにざわつき、両隣の仲間と何となく身体を向かわせてコソコソしている。

 お役目着の女性はギュッと太腿に乗せていた白い手を握る。

 イラッとしたんだろうなとは思うけど、私だってイラッときている。


 さっきまで落ち込みの方に揺れていた感情が今度は怒りへと振り切れていた。




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