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「あぁ。年内に間に合ったのね」
そう言って玉彦に宛名だけ見せると、おや、という顔をしてから手を伸ばしたので、私はその他の年賀状の箱に振り分けた。
「ダメよ。一応個人情報だから。稀人にもプライバシーはあるんだからね」
「しかし信久であれば俺が読んだところで問題はなかろう。女性からでもあるまいて」
「ダメダメ。清藤多門様って宛名なんだから。でもあれみたいよ。哭之島からだから、ね。優心様を追って無事に行ったみたいよ」
夏。
多門は澄彦さんが懇意としている僧侶の蘇芳さんの御指名で彼のお寺にお役目に出向いた。
その時にお寺に籍を置いていた信久さんと優心様。
このお役目では色々とあり、優心様は蘇芳さんのお寺から出されて正武家と所縁ある哭之島のお寺に引き取られた。
依代体質だった優心様にとって、先先代水彦の御札によって護られている哭之島のお寺は禍が寄って来られない、安全な住処となった。
そして程なくして、蘇芳さんのお寺から信久さんが哭之島のお寺へと派遣されたのだった。
どういった理由からなのか私には解りかねるが、以前彼が多門を訪ねて来た時の反応を思い出せば、何となくそういうことなのだろうと思う。
「そうであったか。健やかに過ごせるよう願うばかりだ」
「……うん」
優心様は一時期鈴白村で保護されていたが、状態はあまり芳しくなかった。
身体の疲労に加えて、依代として短期間に何度も入れ替わりがあったせいで精神が揺蕩い安定していなかったのだ。
けれど信久さんが訪ねて来た以降は自身を見失うことなく、定まった瞳をしていた、とは多門の報告だ。
正武家入りする以前の友人知人はいないけれど、こうしてお役目を通して自分を偽る必要もなく接することができる友人が出来たことは多門にとって少なからず良い影響があるだろう。
ほっこりとして次の年賀状を手に取ると玉彦と私宛てで、差出人は鈴木くんだった。
彼が年賀状を投函した頃、既に緑林村に泊まることを決めていたはずで、どういう心境だったのか考えさせられる。
一応玉彦に鈴木くんの年賀状を見せると酷く微妙な顔をして手は伸ばさなかった。
それから色々と振り分けていると、極稀に水彦や道彦宛てのものがあった。
何十年も前に亡くなっている彼らだが、お役目で助けられた人々から未だに届く。
もう亡くなっていると知っているにもかかわらずだ。
きっと助けられた人々は亡くなるまで感謝の意を込めて送り続けるのだろう。
今年の年賀状の中には去年のように不穏な気配を纏ったものはなく、ひとまずは安心。
夕方になり今度こそはと澄彦さんは意気込んだがやっぱり台所から玉彦に追い出され、出て来た夕餉はチゲ鍋だった。
切って煮込むだけのお手軽料理である。
しかし澄彦さんは具材にミカンやリンゴを投入しようとしていたので、玉彦に追い出された理由が良く解った。
彼がしたかったのは闇鍋だ。
私が一人で元気な時には賛成するが、万が一おかしなものを食べて体調を崩しましたとなったらシャレにならない。
三人で鍋をつついていると、澄彦さんがお正月らしい話題を振る。
「今夜見る夢を世間では初夢というけど、比和子ちゃんは夢を見るタイプ?」
「夢ですか? そうですねー、たまに見ます。しかも結構はっきり覚えてます。フルカラーで。玉彦は?」
「俺は見ていたという感覚は残るが覚えてはいない」
「へぇ。覚えてないのに見たってことはわかるんだ? 澄彦さんは?」
「僕はねー、ぜんっぜん覚えてない。夢を見たことすら覚えてない。ということは夢を見ていないってことなんだろうか」
「鳥頭だからであろう」
余計な一言を口にした玉彦は炬燵の中で澄彦さんに何度も足蹴にされていた。




