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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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26


 夕方まで病室で過ごした玉様は結局主門に何もせず病院を後にした。


 当主の札に異変が無かったこと。

 特別棟の患者に少しでも変化があったら、次代か稀人のオレのどちらかに連絡を入れること。

 その際には正武家の当主であっても一切他言無用で必ず次代かオレにのみ話すことを院長に告げた。

  今後主門に何かがあった場合、次代が全て対応するということだ。


 車のエンジンを暖めていると、玉様は鈴を鳴らしてから自分のスマホを手に取り、須藤からの報告メールに目を通す。

 流子の家で鈴木と他二名を確保し、今夜の面倒事は恙なく当主の意向通りに進んでいるそうだ。

 この時間から帰宅の途につけば余裕を持って帰られるが、玉様は珍しく直帰せずに寄って行きたいところがあるとハンドルを握るオレに言う。


「買い物? クリスマスプレゼント?」


 今日はイブで、明日はクリスマスだ。

 上守から役目帰りの買い物を禁じられている玉様だが、こういうイベント事は別なのかと思っていると買い物ではないという。


「どこに向かえば?」


「通山の……比和子の実家だ」


「実家?」


「うむ。これが今年最後の外の役目にて、ついでに大掃除でもして帰ることにする」


「先々月上守の夏子さんたちが終わらせただろう?」


「……大掃除を断行する」


「……了解」


 次代が断行すると言えば稀人のオレは従わないわけにはいかない。

 主門にあえて何もしなかった玉様は色々と思うところもあるのだろう。


 そうしてオレたちは夜中に通山に到着し、クリスマスの日中は男二人侘びしく大掃除をして夕方に鈴白へと帰ったのだった。





 あれから数日。


 鈴木たちの一件を終え、正武家屋敷から数日のいとまを出されたオレは敷き直した布団の中で回想している。


 父親がいる病院へ次代が出向いたことを知っている多門だったが、特に何も聞いては来なかった。

 だからオレも言わない。玉様も同様だ。


 そして森元町へ向かう途中に玉様から聞かされたことを思い出しつつ、亜由美はいつ自分の身体の変化に気が付くのか考えていた。


 子どもが出来るということ。


 親になるということ。


 これまでは自分一人の人生を自分だけの責任で生きれば良いだけだったが、結婚して亜由美の人生も背負い、子どもの人生も背負わなくてはならない。

 五村に居れば安泰に過ごせるが、五年後八年間、生まれ育った土地を離れ、親戚や知り合いも全くいないところで生きていかなければならない。

 須藤と多門も共に。


 男が三人も居れば食うに困ることはまず無い。

 亜由美と子ども二人を養うことは余裕だろう。


 一番の問題は子どもを育てることだ。

 一般家庭とは違う家族の在り方になる。

 そんな中でまともな価値観を持った子どもを育てることが出来るのだろうか。

 それ以前に子どもってどうやって育っていくのか恐怖すらある。

 嬉しい反面、責任の重大さに逃げ出したくなる。


 妻が妊娠中に浮気に走る男の気持ちが何となく理解できそうな気がして、オレは気合を込めて布団を跳ね除けた。




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