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勝手に生霊になって寿命を縮める主門に同情の余地はない、と言ったオレに玉様は再び溜息を吐いた。
「もしこのまま主門を放置すれば僅かな寿命は縮むかもしれぬ。自業自得という者もいるだろう。しかし知ってしまった以上何もせぬという選択肢はない」
「でもよ」
「……比和子は、これから命を生み落とす比和子は他者の命が失われるのを良しとするであろうか。主門唯一の家族である多門は父親の死を望むだろうか」
「……」
「娘を失い、息子を失い、自身すら見失った主門にこれ以上の制裁は必要か」
「……必要だ」
「……そうか。どちらにせよ一度、主門に会わねばならぬ。五十嵐が戻り次第、特別棟へゆく」
それだけ言った玉様はこれ以上問答するつもりはないとでもいう風に目を閉じた。
オレの考えは間違っているのだろうか。
家族を失った上守に思うこの感情は至極全うなものだと自分では思っている。
あからさまな復讐はしない。けれど手助けもしない。
もう関わり合いを持たなければどこでのたれ死んでも構わない。
玉様に倣ってオレも黙れば二人を送り終えた五十嵐が神妙な顔をして応接室に戻って来た。
佐々木の見た目の異変は気が付かなかったが生霊と化した主門の姿はしっかり見てしまった五十嵐は多少の動揺はしたがそれでも冷静を保っていた。
オレたちを特別棟へ案内する道すがら、さっきの患者は一体どういう状態だったんだと説明を求めてきたので端的に生霊だと言えば、ぽかんと口を開けて初めて見たと感嘆する。
病院に勤務していれば一人や二人そういったモノを視ただろうと返すと鉢合わせたことはないという。
そっち方面の才能は全く無いようだと五十嵐は残念そうに肩をすくめたが、オレは視えないならそれに越したことは無いと思った。
外来棟から特別棟へ入るための通路は二階の一つのみ。
手前に守衛室があり院長に渡されていた関係者パスを見せ、軽く身体検査をされる。
それから施錠されている分厚い鉄扉を押し開ければ、閉鎖的な空間が広がっていた。
外来棟を歩いて気付いたことといえば非常に窓ガラスが多く、日光が差し込んで明るく開放的だったこと。
しかし特別棟の通路には窓はなく、長く居れば昼夜の感覚が曖昧になりそうだった。
鉄扉を抜けた先にあるナースステーションには患者が一人しかいないというのに看護師が四人、姿は見えないが医師も一人常駐しているそうだ。
五十嵐が声を掛けると若い看護師が近寄り、Sさんの容体に変化があり医師とベテラン看護師、さっきの車椅子を押していた看護師だと思うが、二人が病室にいると教えてくれた。
衰弱した身体で幽体離脱をしてしまったために本体の生体反応が弱くなってしまったのだろう。
再び歩き出した五十嵐の後に続き、無機質な白い廊下を歩く。
何度か実験で入り込んだことのある神守の眼の中に似ている。
患者が一人しかいないというのに主門の病室はナースステーションから離れた場所にあった。
これでは不自由だと思うが出来るだけ静かな空間を維持して刺激しないために必要な配置なのだ。
辿り着いた病室のドアの横には本来あるはずの患者の名前プレートは無く、五十嵐にここだと言われなければ素通りしてしまうだろう。
五十嵐はドアをノックし、中の男性医師の返事を待ってから玉様とオレの前のドアを引いた。




