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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 これだけ聞くと清藤、特に都貴との繋がりは全く無いように思う。


 小学生の頃は一緒に遊んでいたとしても、都貴は中学に上がる頃から病弱な体質だったこともあり学校は休みがちで外出することもなかった。と鈴白村にいた玉様やオレは聞いていた。

 だからオレたちが中三の時、玉様の元服が二年も前に終わったにもかかわらず祝いに来た清藤主門は総領娘の都貴ではなく双子の兄弟を連れて訪れたのだ。


 佐々木とオレたちと同年の都貴は学年にすればギリギリ一年だけ同じ学校へ通うことになるが、例えば中一と中三の生徒が仲良くすることはあまりないと思う。

 家が近所だったとしても田舎ならばあり得そうだが、多門が生まれ育った九州の清藤が住んでいた土地は村ではなく市で、子供の数もそこそこ多かったそうだからあえて仲良くする必要もない。

 佐々木の話を聞けばやはり小学校くらいまでは一緒に遊んでいたが、中学になったころから疎遠になったと言っていた。


 じゃあ一体佐々木は、いつ都貴に操られる儀式を施されたのか。

 数少ない手がかりでは口づけを交わすこと、もしくは狗を継承するように血を飲ませることがその条件となる。

 相手が男だったら口づけの可能性はあり得るが、女同士でそんなことをしたら強烈に記憶が残っているだろう。

 しかし佐々木は都貴を思い出す時、懐かし気ではあるが気まずそうな雰囲気はない。


 それにおそらくだが。

 大学生の時に彼女が玉様と月子様を尾行しようとしていたのは都貴の指示だったのだとオレは思う。

 だから無意識にぶん殴りたくなったのだ。

 ということはその時既に彼女は都貴の手中に落ちており、それ以前に儀式が施されたと思って間違いない。


 操られていた事実を伏せて聞けば彼女のその間の記憶は普通で、月子様の会社に入社したのは自分の意思だという。

 尾行ですら自分の意思だったという認識で、巧妙に都貴が仕組んでいたことが窺える。


 これ以上佐々木から得られる情報は無いと判断したオレが口を噤むと、玉様がテーブル越しに佐々木の肩を叩き終わりを告げた。


「もう顔の無い人間を見ることは無い。しかし以後この病院には来ないことを勧める」


「……わかりました。ありがとう、ございました。それで、あの。多門くんに……」


「佐々木綾という人物に会ったことは伝えよう。しかし連絡を取るかどうかは多門に委ねる。多門の承知なく会いに来ることは禁ずる」


「……はい」


 玉様は本当に多門へ告げるだろうか。

 過去を、家族を無かったことにしたい多門に。


 五十嵐に付き添われて応接室を後にする月子様と佐々木の背中を見送る玉様は無表情過ぎて、オレには読めなかった。


 二人きりになった応接室で玉様はソファーの背凭れに寄りかかり、手にした青紐の鈴を物憂げに振る。

 微かに聴こえた鈴の音に満足して懐に仕舞うとほうっと息を吐く。


「先程の主門は生きすだまであったな」


「あぁそうだな」


 生き魑、俗にいう生霊ってやつ。


 幽体離脱をして魂だけ彷徨う現象。

 春先に五村に来た涛川の妻がその状態だった。

 あれは呪を込めて強制的に身体から離脱させていて禍々しく力あるものだったが、今回の主門はうっかり抜け出しちゃいましたって感じだった。

 意識も感情もなく、何かに引き寄せられて無意識にって感じ。

 だから悪意は全く感じられなかった。


「主門に会わねばなるまい。度々このような状態になるのならばならぬようにしなければ」


「それって必要あるのか?」


「……」


「勝手に離れて寿命を縮めてるんだから放って置けば良いんじゃないのか?」


 冷酷なようだがオレはあえて口にする。


 清藤の謀反の時。

 正武家自体に人的被害は無かったが、巻き込まれる形で上守の家族が犠牲になっていた。

 オレが上守の父親に会ったのは数回だが、母親の照子さんや弟のヒカルとは通山の一軒家で交流があった。

 たまに惣菜を持って来てくれたり、台所に立って料理を作ってくれたり、男三人では手が回らない気が付かないようなところの掃除、庭の手入れなど娘の近況を聞きつつ手伝ってくれていた。


 全く交流の無い知らない人間が犠牲になっていたら、オレはきっと玉様の考えに同意しただろう。

 玉様には次代としての考えがあって、正武家の役目の範疇に稀人のオレが口出しするのはご法度だから。


 しかしオレは感情的になっていると批判されようとも言わずにはいられなかったのだ。

 たとえ都貴に操られていたとしても、清藤の当主として抗えなかった自分を恥じろと。

 子供たちの育て方を間違った責任を取れと。

 精神が崩れようとも生き残ったのだから贖罪をとオレは強く、強く思う。




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