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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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13


「おい、五十嵐。人払いは済んだぞ」


 長い話になるなら二人が戻ってくる前にさっさと話し出せと急かすと五十嵐は開かれたままだったファイルをパタンと閉じた。


「ここに載っていない看護師が何人かいる。特別棟の看護師だ」


「特別棟……ってあぁそういうことか」


 一般病棟にいるのは普通の患者で対応するのも普通の看護師。

 しかし病院本来の存在意義を考えれば、正武家関連、特に役目関連で入院措置となった者が居て当たり前だ。

 特殊な対応となることがままにあるので、視える感じることが採用の第一条件となる。


「何人?」


「今は六人。でもなぁ……滅多にこっちには来ない。ましてや患者はなおさら。あ、患者は一人な」


「誰?」


「誰って……言ってわかるものなのか?」


「わかるさ」


 役目で入院措置になるのは憑りつかれて衰弱してしまった人間などで回復すれば退院となるので直近の役目に関わっている人間。

 少なくとも玉様の役目でそういった人間は出ていない。

 そうなると当主が受け持った役目だろう。

 稀人の間で役目の申し送りや確認はされているが、直近の役目で入院措置が必要となった人間がいたか思い出してもいなかったように思う。

 ここ半年に限れば何人かはいたが。


「入院しているのは中年の男性だよ。名前は『Sさん』」


 病院では万が一のことを考え、患者の本名は伏せられている。

 S、S……さ行の名字を思い浮かべ、オレはハッと玉様を見た。

 軽く眉間に皺を寄せた玉様は懐から黒扇を取り出し口元を隠した。


清藤せいどう主門(しゅもん)であろう。そうか……ここに」


 稀人の多門の父である清藤主門は主家の正武家に反旗を翻した人物だ。

 自分の意思で翻したのか娘の都貴ときに操られていたのかは分からないが、五村へ乗り込んで来た時にはもう都貴の手中に落ちていた。

 当主と須藤の母によって捕縛された主門は意識が混濁したまま何処いずこへと運ばれたのだ。

 玉様と上守が長い眠りに就き、事後処理の段階でオレは主門を見た。

 正武家屋敷の敷地に入ることは許されず、裏門の駐車場に無造作に他の者たちと寝かされていたのだ。

 都貴と亜門に追従していた者たちは当主に粛清され、自分が何者であるのか忘れてしまったが日常生活に支障がない程度で警察に保護された。

 新たな人生を新たな名前で生きて行くのだろう。

 彼らの動向は当主のみが知っている。

 都貴は大国主命に連れ去られ生死不明、亜門は犬外道と化した自身の狗に喰われて死亡。

 そして残された主門は命はあるものの精神が崩壊しているような状態だったので生きていると言っても良いのか疑問。


 粛清し命を奪うことは可能なのだろうが、当主はそうしなかった。

 当たり前だ。直接手を下してしまえば普通に殺人だ。証拠がないので立件しようもないが。

 五十嵐から話を聞くまで玉様も主門がこの病院に入院していることを知らなかったようだから寝耳に水だったのだろう。


 苦々し気に父上め……と呟いてぎりりと歯ぎしりをしそうな感じだ。


「んで、そのSさんは今どんな感じ」


「どんなって食事以外は四六時中寝てる」


「食事は自分で?」


「いや、看護師が口元まで運んで食べさせてる。強く声を掛けて起こすんだが起きない時は点滴。食事の時以外は寝てるからその……排泄とかは全部こっちで処理してる」


「認知症の末期みたいな感じか」


「そうだな。あぁでもたまにほんと極たまに起き上がってる時がある。特に何もしないで外を眺めているだけだが」


「何か話したりは」


「ないね。声を掛けても反応はしない」


 五十嵐から経過を聞くに、主門が今回の件に関わっている可能性は限りなく低い。

 自発的な行動がない、出来ない以上何かを企むことも出来ないと判断するのが妥当だろう。


 演技をしていなければ、だが。




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