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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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4


 どこにでも歩いていそうな普通の女だった。

 中肉中背。取り立てて美人でもなく、不細工でもない。


 挙動不審に目を泳がせてしどろもどろになる姿にオレは苛立ちを感じた。

 オレは何があってもコイツとは相いれない、そんな第六感。

 無意識にぶん殴りたくなるようなそんな感覚。

 さすがに殴らないが関わらないように出来るだけ避けて通りたい人種。

 こういう第六感と云うのはほぼ当たる。


 オレが玉様と一緒に居たのも見ていたであろう佐々木は問い詰めに対して、最初はしらばっくれていたものの二人の姿が遠ざかり視界から消えてしまったことで観念したのか白状をした。

 社長に年頃の子どもがいて気になったそうだ。

 話を聞けばどこかの田舎の名士の息子ということで興味を持ったらしい。

 社長の息子で名士の息子にどんな興味を抱いたのか、聞かなくても明白だった。


 なのでオレは心の中で上守感謝しろよ、と恩着せがましく思いつつ、彼女に玉様には数年来の婚約者がいてちょっかいを出しても相手にされないぞ、と大学の女連中の話を交えつつ忠告をしておいたのだ。

 帰宅した玉様にも月子様の会社関係の女が後を付けていたことを報告し、報告だけではピンと来ないだろう玉様に懇切丁寧にどういう思惑でそういうことをしていたのか解説をすれば、玉様は神妙な顔をして頷いた。


 それから特に問題もなく過ごしていたのだが、数年越しにまさか佐々木から直接玉様に連絡が来るとは思っていなかったオレは警戒心全開だ。

 どうやら月子様から玉様の番号を教えてもらったらしい彼女は『取引先の病院で怪奇現象が起こる』とだけ話す。

 なぜ澄彦様ではなく玉様への依頼なのかツッコミどころは満載だ。

 あれから五年も過ぎ、彼女にも彼氏だとかそういった存在があるのなら単なるオレの取り越し苦労だ。


 けれどオレの第六感はそういってはいない。

 月子様から息子が結婚した話を聞いているだろうし、何が狙いなのか全く分からないが、警戒をしておくに限るだろう。

 そして上守には何も言わないでおこうと思う。

 余計な心配はさせない方がいいだろう。

 玉様が浮気するなど万が一にもないと言い切れる。

 迫られたって相手にしないだろうし、もし薬を盛られるとかの強硬手段で既成事実を作らされそうになったとしても『出来ない』ことを全員が知っているのだから。


 急ぎの役目でクリスマスを一緒に過ごせない、と正武家屋敷から亜由美に連絡を入れると、今日はひがいと一緒に緑林村で行われる例のクリスマスパーティーという名の婚活パーティーに参加するから気にせんで良いよ~と返事をされたがオレは複雑な気分だった。


 既婚者のくせに参加する意味ってあるのかよ。


 沸々と言葉に出来ない感情が溢れるが言ったところでどうしようもない。

 一緒に居られないのは確かで、その間一人寂しく留守番していることを思えば、まだ鰉と一緒の方が楽しいだろう。

 須藤や多門もメインで参加するのでおかしなことにはならないはずだ。


 屋敷の私室で荷物をまとめ、裏門へ行くと当主次代上守が揃っていた。

 ここ数週間で目を見張るほど身体が変化した上守は重たそうに腹を抱えていたので、見送りは良いから中へと戻れという玉様の言葉に同意してオレも寒いから戻った方が良いと言ったが、上守はうんうんと頷くものの戻る気配は無い。

 それから車を暖め、緑林村の村長が登場し、鈴木一行の馬鹿二人が祠に何かを仕出かした報告を受け、オレは出掛ける前から疲れを感じた。

 当主に丸投げしたが大丈夫だったのかと心配は尽きないが、とりあえず玉様と月子様の会社へ向け出発。


 上守はこちらが見えなくなるまでずっと手を振り続け、玉様もせっかく車内を暖めたというのに後部座席の窓全開で手を伸ばして振り続けていた。


 戦時中か。





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