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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 そう、今日は十二月三十日。


 明日から四日間、正武家屋敷には正武家家人しか残らない。


 稀人も本殿の巫女も全員お屋敷から出て行かなくてはならないのだ。


 そうして三十一日から一月三日までお屋敷では束の間の家族団欒が待っている。


 南天さんと豹馬くん、亜由美ちゃん、そして両親は御門森のお屋敷で年を越すそうだ。


 今年は行方不明となっていた宗祐さんの奥さんである東さんが帰ってきたので、格別なお正月になることだろう。


 須藤くんは実家で過ごすそうだけど、なぜか鈴木くんも一緒らしい。


 そして多門は今年も私のお祖父ちゃんの家で過ごす予定。


 来年も希来里ちゃんにお年玉をたかられるとぶつくさ言っていた多門だが、可愛いポチ袋を用意しているのを私は知っている。


 松竹梅三姉妹は年末年始ちゃっかり新築ホテルに予約を取っていて、優雅に過ごすそうだ。


 那奈、香本さん、高田くんは実家で。


 それぞれが仕事を終えて、お役目とは係わらない貴重な四日間。


 玉彦も澄彦さんも含まれる。


 ただの息子と父親に戻るのだ。


 今年は本当に色々とあった一年だったから、感謝を込めて皆をお屋敷から送り出さなくてはいけない。


 特に私は家出はしたし、井戸から落ちて行方不明にもなったしで、何度頭を下げても足りないくらいなのだ。


 それに、来年からはもっとお世話になってしまうだろうから、子どもたち共々よろしくお願いしますって頼まなきゃなのだ。


 そそくさと準備を始めると、空気を読んだ竜輝くんがエドワードを連れて部屋から退散する。


 そして玉彦も上着を羽織って、私にマフラーを巻き付けた。


「暖かくせねば。寒さで産気付かれては困る」


「まだ二か月もあるから大丈夫、って言いたいけど確かにね。明日とか産気付いたら玉彦と澄彦さんに取り上げてもらわなきゃだから困るわね」


「産屋に我らは立ち入ることが出来ぬゆえ、一人で気張ることになるぞ」


「……もっと暖かくしておこうかな……」


「……そうするのが良いだろう」


 そうして私がこれでもかというほど着ぶくれをして裏門に登場すると、多門はすかさず雪だるまかっと声を上げた。



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