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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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「ある程度祠にそういった者が溜まれば正武家の者が出向き祓うか、もしくは五村の寺の住職に手を借りたと顛末記にはあった。忙しかったゆえに正武家以外の者にも祓えるように、そしてこちらから出向いて捜し歩くよりも一ヵ所に留まっておくようにと綾彦は祠を造った。住職は祠の中の者たちに戒名を与え、成仏させたと伝わっている」


 玉彦はほうっと溜息を吐いて、説明をつけ加えた。


「祠に戒名を書いた紙を貼り付けるのだ」


「あっ! ああああっ! そう言えばプリクラに名前、あったわね!」


 忘れもしない。

 クリスマスイブの朝。玉彦を見送る為に澄彦さんと一緒に裏門に出ていると、緑林村の村長さんが物凄い剣幕で乗り込んできたのだ。


 運転していた白い軽トラは車体に積もった雪を振り落としながらドリフトして駐車場に止まり、腕組みをして立っていた澄彦さんのところに走り込んできた村長さんは滑り込み土下座をした。

 さすがの澄彦さんも言葉を失っていると、村長さんは右手の人差し指に一枚のプリクラを乗っけていた。


 キャラが濃すぎる二人の横に『おいら』『アヤト』と書かれたプリクラを澄彦さんと私、そして玉彦が覗き込み、豹馬くんはわざわざ温めていた車のエンジンを止めて、村長さんに対応したのだ。

 今朝、祠にプリクラが貼られていたと村長さんは憤慨しつつも澄彦さんの前では震え、どうしたら良いのかと声も震わせた。


「あれ? でもじゃあ澄彦さんはどこの祠か知っていたんじゃないの? だって村長さんから話を聞いたんだから」


「念の為、であろうな。他の祠に貼られていないか、そして中に何か入っていないかを確認したかったのだろう。行脚でも滅多に回らぬ故、捕獲された者が何年も放置されていないか、な」


「でもあれよね? 玉彦もたまぁに何にもない祠を覗くけど、視えないわよね?」


「そこがな。綾彦の優れたところでもあるのだ。中に何者かが居る場合、正武家の我らでも視える仕様にしてあるのだ」


「どうやって造ったのかしら。視えない正武家の人間に視せるようにするって相当な力よね?」


「うむ。恐らく、だが。当世の神守、もしくは本殿の巫女が何かしら知恵を絞ったのではないかと思われる。残念ながら顛末記に製作方法は書かれていないのだ。だからこそ一代限りの稀有な力で造られたものだと考える」


「あー……そっか。そういうことね。何か納得しちゃった……」


 私が井戸に落ちた時。

 私にしか視えない逃げ道があったことを思い出した。

 そして九条さんと顛末記を読み漁り、歴代の神守が持つ能力をピックアップしたことがあったけれど、その中で九条さんは神守の者が二人以上持っていた能力を重点的に調べていたのだ。

 普通の神守ならば発現できる可能性が高いから。


 玉彦が言う稀有な力とは、井戸に細工を施した神守のような人物を指すのだろう。


 私は、どうなのかな。

 視えるし、自分を触媒として他者に不可思議なモノを視せることも出来る。

 あとは他者の中に入ったり? あとは涙を流せば隔離された空間を創り出すことが出来る。

 でも何かに細工を施したりは出来ない。

 その場限りの力しか発揮できない。

 祠に細工した人物は何百年経った今でもその力を発揮しているというのに。

 戦国時代では即戦力を求められ、今よりもまだまだ不可思議なものが当たり前に溢れかえっていて、神守の力も濃かっただろう。

 だから何代も下の私の能力が劣っていても、とは思ったけど、同じく何代も重ねている正武家の力は衰えていない。

 ということはとどのつまり、私個人の力が劣っているだけの事なのだろう。


 複雑な心境のまま後ろへ倒れ込み、心配した様子の玉彦たち三人が私を覗き込んだ。


「大丈夫か、比和子。もう疲れたのであろう。今夜はもうこのまま休むが良い」


 気遣わし気にお布団を掛けられたけれど、私は跳ねのけた。


「ダメよ。そうもいかないわ。のんびり話してたけど、今日三十日でしょう!? 鈴木くんたちのせいで予定が押しちゃったけど、今年最後の挨拶、皆としなきゃ。まだ皆お屋敷に居るわよね?」


「そのようなこと、気にする必要など」


「こういうのって大事なのよ。今年一年、本当に皆にお世話になって迷惑も掛けちゃったんだから」


 私は何となく気怠さを感じつつも立ち上がって、暖かい格好になるべく冬物の上着を手に取った。



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