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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 緑林村の派出所で昏倒した四人はすぐに正武家屋敷へと担ぎ込まれたが、何かに憑りつかれてしまっていた細身の青年だけは意識を保っていた状態だった。

 正しくは、本来の身体の持ち主である佐藤宏という人物は憑りついた者によって他の四人と共に緑林村の祠に送られており、正武家屋敷に連れてこられた彼は、以前こっくりさんに憑りつかれた希来里ちゃんのような感じだったのだ。


 正武家のお屋敷は基本的に神様以外の不可思議なモノは黒塀によって阻まれるが、人の身体の中に巣食っている場合は身体が器の役割をしていて、器から出てこない限りは弾かれることは無い。

 しかしさすがにおかしな感じはするので、憑りつかれている者であると澄彦さんや玉彦はすぐに気付くそうだ。

 新田さんの赤ちゃんを見た時のように。


 今回の一件は玉彦が外のお役目に豹馬くんと出向くことと重なってしまい澄彦さんが取り仕切ることになったが、一から十までシナリオは管理されていて、鈴木くんたちが気の毒に思うほどだった。

 唯一想定外だったのは白蛇はくだの登場だったが、あれはあれでアドリブでよかったよねぇ、とは澄彦さんの感想である。

 本当はもっと楽しいことを澄彦さんは彼らに経験をして欲しかったようだったけれど、年末でお役目が忙しい中、そんなことまでしてくれるな、という南天さん必死の説得に澄彦さんは渋々応じた形だ。

 なので彼らが竹婆の有り難いお説教を気にも留めず同じ様な事を仕出かしたなら、澄彦さんが考えていた『もっと楽しいこと』が『発動』するそうだ。

 何が発動するのか、それは秘密らしい。


 そんなこんなで病院から帰った玉彦と私は、離れのどこかの部屋から聞こえてくる竹婆の声を後に自分たちの母屋へと早々に戻った。

 すると私たちの帰宅を台所で知った竜輝くんとエドワードが、私たちが着替えた頃合いを見計らって顔を見せた。

 急須と湯呑みとお茶菓子をお盆に乗っけて、である。


 彼らは今回色々と動いてはいたものの、どういう意味があって自分たちがそういうように動かされていたのか十分理解出来ておらずに気持ち悪かったのだろう。

 澄彦さんには聞き辛いし、稀人の先輩たちは忙しくしていて、結局はまた私のところへと来る羽目になったのだ。


 すっかり玉彦様モードからただの玉彦に戻り、手際よくお布団を敷いて私を寝かし付けようとしていたら二人の訪問があったのでちょっと機嫌が斜めになりかけだった玉彦だったが、私も気分転換に話をしたいと聞いて無理はしないように、と大人しく腰を下ろした。


 年末になり既に病院はお休みになっていたけれど、今朝何となくお腹の張りがいつもと違うように感じて急遽来院したので、玉彦はいつにも増して心配している。

  一応竹婆にも診てもらって、念の為に行っただけなんだけどな。


 座っていると玉彦が話を直ぐに切り上げようとすることを予想した私は、お布団に横になり訪ねて来てくれた二人に座るように促す。


「それで? 離れの様子はどんな感じ?」

 

 私に聞かれた竜輝くんは竹婆が猛威を振るい、松梅コンビが絶妙なアシストをしています、と答える。

 五人相手だから三姉妹で出向いたのだろうが、おつりがくると思う。


「鈴木くんは?」


「鈴木さんは観念した様子でした」


「そっか。流石に何日も放置されてたら人間不信になってそうだけど」


「あの鈴木に限ってその様なことはあるまい」


 竜輝くんが淹れてくれたお茶を啜り、玉彦は呆れたように目を伏せた。


 そうは言っても身動きすら取れず、魂だけの状態で数日祠に閉じ込められていたのだ。

 普通の精神だったら持たないだろう。

 続いて他の四人の様子を聞けば案外大丈夫そうで、むしろ竹婆のお説教が最大のトラウマになりそうですと竜輝くんは付け加えた。

 親にすらされたことも無い真正面からダメ出しをされて、正論過ぎる正論を振り翳されてはぐうの音も出ないことだろう。

 反論するチャンスと思っても黙らっしゃい、で黙るしかない。

 今は昼過ぎだから夕方くらいには解放されると思う。

 明日の朝には正武家家人以外の人たちはお屋敷から出て行かなくてはならないので、翌日持ち越しとはならないはずだ。


 これは澄彦さんの温情。たぶん。




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