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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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30


 玉様の父さんは懐から人型の白い紙を五枚取り出し、オレたちの名を呼びながらそれらを祠へと祀った。

 そうして大きく柏手を一度打てば、じわじわと今までなかった感覚が身体に戻り、にゅるりと祠から這いずるように追い出された。


 が、感覚はあるものの実体が無い。

 所謂魂の状態だった。

 足は……しっかりとある。


 人型が封じられていたオレたちの身代わりとなってくれたようで、次から次へと解放された四人が祠の前に息も絶え絶えといった感じで現れる。


「ただ光ってるだけだけど、人か?」


 オレたちに目を細める玉様の父さんは、スマホを耳に当てた南天父さんを見上げる。


「間違いなく人ですね。皆さん、とりあえず正気の様ですよ。……もしもし、南天です。解放しました。よろしくお願いいたします」


 ぼうっと身体が温まるにつれて、昇天するように浮上したオレたちを立ち上がった玉様の父さんが見送る。


「君たちはこれから自身の身体に戻るよ。でも、その先で起こる出来事は、まぁ自業自得だから甘んじて素直に受けるようにね。万が一逆らうと、酷い目に遭うからね。気を付けるんだよ」


 せっかく解放されたのに、この先にまだ何か待ち受けているのか!?

 せめて何が起こるのか教えてくれ、と懇願する間もなくオレの意識は太陽に溶け込んだ。









 肌を刺す寒さに薄目を開けると一番最初に目に映った現実は、木目の天井だった。

 指先を動かせば布団の上に居ることが分かり、オレはゆっくりと左右を向く。

 アヤトがいてエリカが居た。

 その向こうには零と安芸津もいるのだろう。

 掛け布団は掛けられていなく、朝の独特とした静謐な寒さが身を襲ったがそれさえ気にならないくらい、オレは生きていることに実感を覚えて深呼吸を繰り返した。

 生きてるって、身体があるって、素晴らしい。


 しかし、なんだぜ。

 寒いし、身体の感覚は確かにあるんだが、指先と足先は動かせるが他の部分は固定されたように動かない。

 ううん? と首だけ起こせば、オレの身体は物の見事にロープでぐるぐる巻きにされていた。


 ……。


 オレはこの状態を知っている。つーか、経験したことがある。

 不可抗力で通山の玉様の家の鍵を落としたとき……。


 まさかだろ!? と思って隣のアヤトの身体を見れば、そっちもオレと同じ状態だった。

 反対側のエリカもである。

 まさか、玉様は五人まとめて木に吊るすつもりなんじゃ……。

 一難去ってまた一難。

 この状況をどう切り抜けるかと頭を働かせていると、オレたちが寝かされていた部屋に誰かが入って来た。


 そちらへ目を向けて最初に見えたのは足元で、赤い袴。

 徐々に視線が上がって白衣が見えて、巫女さんだ、と思ったのも一瞬。

 鎮座していた顔はお婆さんで、ものすんごく気合の入った眉間の皺だ。

 でも、何となくどこかで見たことある様な? と凝視していると、巫女婆さんの後ろからまるで分離するように同じ顔の着物姿のお婆さんが二人姿を見せた。


 おっふ……。


 オレはこのお婆さん二人は知っている。

 玉様屋敷の門番だ。

 お婆さん、双子じゃなくて三つ子だったんか……。


 お婆さんたちは、すすすっと足音もさせずにオレたちの頭上へ来ると、こちらを見下ろして全員の意識が身体に戻った事を目だけで確認していた。


「あのぅ……。ここは」


「この、大馬鹿者どもがっ! 年の瀬に罰当たりなことを次から次へとっ!」


 一体どこに自分はいるのか聞こうとしたら、巫女婆さんの轟く雷が落ちた。

 小柄な身体からどうやってこんな腹にまで響く声が出せるのか。

 あまりの剣幕にオレはそれ以上お婆さんを刺激することは出来ないと判断して、静かに目を閉じた。





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