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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 あれから。


 一切眠らず、というか眠たい感覚もなく、目を閉じることも出来ず、というかどうやって視界を遮断して良いのか分からず、五日くらい過ぎた。

 三日目くらいまでは数えていられたが、ここで見聞きしたことは記憶が曖昧で死んでるように生きている状態だ。


 意識だけある感覚でオレが分かったことと言えば、自分がいるところは例の祠だろうということだけだった。

 零とアヤトが遊び半分でプリクラを貼った、祀られている者が居ない祠だ。


 オレは祠の中から外を見ていて、お参りに来る人間たちをただただ眺めているだけだ。

 アヤトに憑りついた流れ者はこの祠に居て、祠に悪戯をした罰を二人ではなく、仲間を含めて五人に下したということだろう。

 爬虫類親子の父親が言うには黙っていればどっかにいったのに、二人がちょっかいを出してしまったのでムカついたのかもしれん。


 ということは、だ。

 他の四人もオレと同じ状態で祠の中に居るのかもしれないが、なにせ見て聞くだけしか出来ないので、確かめようがない。

 小さな祠に五人も押し込まれているなら窮屈に感じそうなものだが、意識しかないしな。

 そう意識しかなく身体が不在な訳だが、オレの身体は今一体どうなってるんだろう。

 派出所で意識不明の寝たきり。もしくはオレではない誰かが中に入って動き回っている。最悪御臨終。


 ……玉様はオレを助けに来てくれるんだろうか。

 巡査長の渡辺さんから五人がおかしなことになったと連絡を受けて、調べて、ここに辿り着いてくれるだろうか。

 玉様屋敷でアヤトの異変に気が付かなかった彼らが。

 あわよくば。玉様屋敷の誰かがここを通りかかって、変だぞ? と気付いてくれればとも思うが、祠の前の砂利道は車が通れるような幅ではなく、徒歩で訪れないと目に入らない。

 田舎は車社会だからわざわざこんなところに来ないだろうな……。


 ネットでオカルトの館を発見した時。


 倒れずの木戸の話を聞いた時。


 のこのこ緑林村へ来た時。


 須藤に会った時。


 玉様屋敷へ行った時。


 倒れずの木戸へ向かう前。


 いつでも止めておくという選択肢はあったはずなのに、オレは全て選ばなかった。

 全部悪い方をわざわざ選んでいた。

 面倒事になっても玉様の村だから何とかしてくれるだろうと甘えていたんだ。

 でも実際は自業自得だと言わんばかりに助けは無い。


 ほんと、マジで自業自得……。

 もし、オレがここから出られるなら、これからは首を突っ込まない。下手な好奇心は持たない。



 だから、誰か助けてはくれないか。















「うはははははははっ。おい、南天見てみろ。面白いことになっているぞ!」


「何が面白いものですか。正気を保っていなかったらどうするおつもりですか、まったくしょうもない」







 夜が明けて左から上がった太陽の光を後光のように背負い、黒い羽織に白い着物の玉様の父さんと紺の作務衣に軍手とマフラーという出で立ちの竜輝の父さんがやった来た。

 こちらを指差して遠くからでも聞こえるほどの笑い声を絶え間なく発し、玉様の父さんは祠の前で片膝を付く。

 オレを、祠をまじまじと眺め、顎に手を当てて感心したように、ほうっと白い息を吐き出した。


「見ろ、南天。綾彦はなんと繊細で見事な仕掛けを施したものよ。御霊が綺麗に封じられている」


「はぁ……。生首が五つ。気持ち悪いですね」


「生首? ただ五つ光っているだけだろう?」


「視認しないって幸せですね……」


 玉様の父さんの背後で南天と呼ばれた竜輝の父さんは本当に気色悪いと言いたげに眉を顰めた。


 玉様の父さんが来てくれた……。


 っていうことはオレたちはここからやっと解放してもらえる。


 待ってた、待ってたよー。

 祠から出られたらもう二度と肝試しなんてしませんから、早く早く。


 久しぶりに感情が動き、オレはそわそわと視線を泳がせた。




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