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そんなことを考えているとエリカの家に到着した。
二階建ての立派な家で、脇には作業場と材木が高く積まさっている。
肩から下げていたバッグから家の鍵を取りだしながら玄関に向かったエリカはその数歩前で立ち止まり、こちらを振り返った。
まさかまさかまさか!? オレと同じどじっ子で鍵を空き地に落としてきちゃったのか!?
「荷物が……外に出されてる……。なんで? え?」
取り乱したエリカは玄関前に駆け出し、オレも近寄る。
玄関前のコンクリートには青いブルーシートが敷かれ、その上には黒いボストンバックと透明なゴミ袋に入れられた洋服が入っていた。
「なんだこれ?」
「あら。こっちのバックは私の荷物だわ」
隣に来た安芸津はその場で中を確かめて、無くなった物は無いと言う。
そしてゴミ袋を開けることなくエリカはそれを両腕で抱きしめた。
するとゴミ袋から一枚の走り書きのメモ用紙がひらりと落ちる。
片膝を付いていた安芸津は拾って目を走らせると、エリカではなくオレに手渡した。
「禁を犯す者。家族にあらず?」
声に出して読み上げるとエリカは玄関に走り、鍵穴に鍵を入れて回した。
半狂乱に見える背中に掛ける言葉はない。
「開かない……! 開かない! お母さん! お母さん!」
エリカはゴミ袋を投げ出して家の周囲を叩いて走ったが、家は沈黙を守り、電気すら点かなかった。
それからスマホを取り出したエリカだったが零やアヤトと同様に使えなかったようで安芸津に借りても使えない、オレのはさっきまで繋がっていたがやはり不通だった。
ちくしょう、玉様の父さんめ。タイミング良く止めやがったな!?
エリカはそれからオレたちを玄関前に残して近所の家々も回ったが、どこも応えることはなかった。
寝静まっているわけじゃないだろうと理解するのに時間は掛からなかった。
このままここに居てもどうしようもないと判断したオレたちは、ひとまず二人を連れて宿に戻ることにした。
幸い部屋は二つある。
本当に嫌だがオレが零たちの部屋に行けば彼女たちを泊めることは出来る。
そうして宿に戻ったオレたちを待ち受けていたのは、エリカと同じく宿の玄関前に置かれた三人分の荷物だった。
十日分先払いしていた宿泊費は一日分だけ引かれて茶封筒に入れられて荷物に入っていた。
三泊を予定していた零たちもやはり一日分だけ引かれて戻されていたようだ。
吹雪く真夜中。田舎。宿なし五人。しかもクリスマス。
なんにも、なーんにも良い案が浮かばない。
ここで泊まれるところなんて玉様屋敷か御門森か須藤の家しか浮かばない。
でも徒歩では遠すぎる。
到着する前に確実に凍え死ぬ。
エリカの友達の家を頼ってもきっとご近所さんと同じパターンになるだろうと思う。
「これから、どうする……?」
宿の前で円陣を組んでいたら、零が口を開いた。
「どうするって……」
宿には他の宿泊客もいて、ここで騒げば誰かが気付いてくれる可能性はある。
けれど周囲を見渡せば、オレを送ってくれた御主人のバンが無く、ここにはもう誰も居ないことが予想された。
宿泊客を置いてどこかに行ってしまうことはないだろうから、きっと全員でどこか別の宿泊所に行ってしまったのだろう。
だったら勝手に宿のドアをこじ開けてお邪魔するという手もアリだが、それをすると本当の犯罪になるので出来ない。
何も案が浮かばないままどうするどうするという言葉だけが口に出ていると、安芸津がそう言えば、とエリカを見た。
「近くに神社やお寺はないの? この辺りの土地は気持ち悪いけど、流石に神社仏閣が無いわけじゃないわよね? そこなら事情を話せば泊めてくれない? 変なことに巻き込まれて追い出されてしまったって言えば助けてくれそうなイメージだけど」
「近くにお寺は、あるよ。けど、どうだろう……」
「助けを求めるんだったらさ、警察行こう。カズヲもそう思わない? おいら、警察の方が良いと思うお」
「うーん……」
口籠るエリカと同様、オレも黙る。
普通の土地なら警察で何とかなる。でもここはちょっと違うんだよなぁ。
「お寺より派出所の方が近いから、そっちに行ってみる?」
お寺よりも警察の方がまだ中立性があると判断したエリカはゴミ袋を抱え直して、オレたちを促した。




