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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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25


 何はともあれ、あの親子のお陰で木戸の婆さんは退散し、オレは解放された。

 どこぞの屋敷に連れて行かれそうになったが、玉様の父さんの話をして何とか難を切り抜けた。

 ここまでは良い。オレにしては上出来。

 ちょっと痛い目には遭ったけど、生きてる。死んでない。

 問題はこれからだ。


 山道を下って帰るだろう?

 もう夜も本当に遅いから安芸津とエリカを家まで送って行く。

 それから、零とアヤトと三人で宿に戻って休む。


 と、考えてはみたが、どう考えてもアヤトをどうにかしなきゃいけない。

 さっきの爬虫類の目をした父親は、玉様に会うことを勧めたし、はっきりとアヤトに流れ者という奴が憑いていると言った。

 幼馴染の零もアヤトじゃない気がすると言い、霊能力が本物かどうか疑わしい安芸津だが彼女はアヤトを見て一応同類、と言っていた。

 これでアヤトが変だと思う奴は三人。

 ちなみにオレは話を聞いて疑ってみて初めてそうなのかな? って思ったからノーカウントだ。

 今だって正直、アヤトから何か不穏なモノを感じる訳じゃなかった。


 それに、だ。

 祠へプリクラを貼ったのが昨日。

 そして今日、玉様屋敷へ行ったが何も言われなかったのだ。

 玉様の父さんにも須藤にも。

 ここがちょっと引っ掛かるんだよな。


 これからどうするべきか、腕を組んで悩みながら薄情者四人のところへ戻れば、零とエリカがオレの背中を擦ったり心配をしてくれた。

 親子が消えた竹林をずっと薄ら笑いを浮かべて見ているアヤト。

 そしてオレを置いてスタコラサッサと逃げた安芸津は開き直ってオレにあんなものに捕まって動けなくなるなんて三流だと言い放った。

 さすがにこれにはカチンとオレは言い返そうと思ったが止めておいた。

 口で女性には勝てないのですよ。


「カズヲー。さっきの子連れなんなん?」


「あ? あれ? 近所の人みたいよ。この辺のお屋敷に住んでて、あったまりに来るかって聞かれたけどお断りしたよ」


 オレがそう言うと、エリカは両手で口を覆い、この辺に屋敷と呼べるほどの立派な建物は無く、あんな親子なんて見たことが無いと声を震わせた。


「そうだろうな……。こんな時間に子供を連れて出歩くなんて普通じゃないからお化けが騙しに来たのかもな」


 きっとあの親子は騙すわけじゃなくって心配して言ってくれたとオレは思っているが。

 玉様と知り合いみたいだったしな。

 ただし人間じゃなかったけどな。


 これ以上ここに居ては危険と満場一致の意見で、オレたちは行きと同じく口数は少なく歩き出した。


 ヘビーな体験をしたはずのオレたちだったが、案外取り乱さずにいられたのは、そういうものが好きな集まりだったからだとは思うが、正直もっとパニックになっていてもおかしくはなかったとも思う。


 木戸から大百足が出て来ていたなら……。

 婆さんが木戸を越えて追い掛けてきたなら……。


 最悪な状況を今さらながら想像してオレは身震いをした。ケツも冷たい。


 山道を下りてようやく当初の待ち合わせ場所だった街灯下に戻ってくると、誰ともなく安堵の溜息が聞こえた。

 非現実的な中にあって、こうした人工物を前にすると落ち着く。


「送って行くよ。二人とも。良いよな?」


 そう言って零とアヤトに聞くと彼らは頷いた。


「じゃあ行こうか……」


 再び歩き出してエリカの家へと向かう。

 彼女の家はそこから数分のところにあり、何軒かの家がこじんまりと肩を寄せ合っているかのような集落だった。

 以前須藤に案内してもらった鈴白村はポツンポツンと畑の合間に家があったり、山間に新興住宅地があったり、商店街を中心に栄えている感じだったが、エリカの話だと緑林村は林業に携わる人間が多く、職人さんの集団がそれぞれ集落で固まって住んでいるそうだ。

 玉様屋敷で会ったエリカの父さんも大工の棟梁をしているらしく、集落では一応一目置かれているらしい。


 だから、か。

 彼女が視えると嘘を言っても誰も茶化さずにそのままにしていたのは。

 いじめられっ子が視えると言えば格好の標的になるが、いじめっ子が言えば取り巻きがそうなのかーと持ち上げてくれる。

 今回エリカが肝試しに行こうと誘っても誰も乗って来なかったのはそういった背景があるのだろうと思う。

 オカルトの館でエリカは友達が多く人気者だと自負していて文字の端々にそれを感じ取れたが、一皮むけば本当の友達ってやつはいなかったんじゃないかな。

 もしいたなら、肝試しは駄目だと止めてくれただろう。



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