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「う、嘘だろ~……」
まぁ? 所詮は出会ってすぐのただの知り合いみたいなものだし?
見捨てて逃げることは仕方ないとも言えなくもないが、助けに来たオレを見捨てちゃう!?
情けない声を発したオレを見た老婆は口角だけを上げて笑った。
「手伝ってくれますかの?」
「は? 手伝う?」
「化け物退治」
化け物はあんただろう、と言わずにはいられないが言ったらおしまいな気がする。
全く力が緩まない老婆の手と綱引きしながら、オレは考える。
化け物ってさっきの大百足の事だろうとは察しはつく。
しかしどう頑張ったってオレは勇者じゃないので巨大な大百足は退治出来ない。
ていうか老婆が姿を現したことで大百足は逃げて行ったはずで、とすれば老婆の方が力関係は強いのだろう。
だったら何を手伝う必要があるんだ。
オレの疑問は表情に出ていたらしく、老婆は再び笑う。
「あれらはすぐに逃げてしまいます。生餌に……」
「無理無理無理無理無理ーーーー!」
老婆に最後まで言わせず、オレは叫んだ。
断る断る。絶対にお断るっ!
「玉様っ! 御門森! 須藤! 誰か、居るんだろっ!? もう無理ーーーー!」
うぎゃーといくら叫んでも助けは来ず、すぐ近くに居るはずの零たちも来てくれない。
オレの人望の少なさよ。
散々騒ぐこと数分。
全く諦める様子が無かった老婆の手がぴくりと反応してから弱まり、オレは思いきり仰け反って後ろに倒れ込んだ。
べしゃりと雪の上に転がり、老婆を見上げると、そそくさと扉の陰に隠れて、そしてゆっくりと自分で扉を閉めた。
「は? え? なんで?」
オレの叫びを聞いて誰かが助けに来てくれたのかと辺りを見渡せば、吹雪く竹林の奥に白い人影が二つ、大きいのと小さいのが見えた。
こんな夜中に。
こんな山奥で。
こんな曰くあり気な場所に。
何もなさそうな竹林の奥から。
人間が歩いて来るはずがないと解っているのに。
父親と思わしき男は悪天候の中、白い着物のみで左手に薄茶色の番傘を差し、右手は自分の分身のような子供と繋いでいる。
細くしゃなりとした体形に黒く長い髪。肌色は白く、唇の赤味はどことなくアヤトと似ていた。
子供も父親同様に白い着物のみで見ているこっちが寒くなってくる。
白い着物はこの辺りの流行りなんだろうか。
玉様もさっきの婆さんも、そしてこの親子も白い着物である。
と言うか今時イベントでもないのに着物を着ている人間はオレの知る限り、玉様しかいないのだが、ここらじゃ当たり前なのか?
吹き荒ぶ中、親子は真っ直ぐこちらへと歩いて来た。
竹林を抜け、倒れずの木戸まであと数メートル。
オレは地面に座ったままぼんやりと眺めていた。
きぃぃぃんとずっと耳鳴りが続き、意識が朦朧となりつつあったせいかもしれない。
木戸に嫌なものを感じてから今まで、どこか遠くで警鐘のように鳴り続けていた耳鳴りは、ここに来て頭痛を感じさせるくらい酷いものになっていた。
親子は木戸の前に揃って立つと、父親が頷き、子供はオレにチラッと視線を向けた。
この時点でもうね。あれですよ。
親子は普通の人間じゃないぞって感じよ。
だって普通なら、大丈夫ですかの一言くらいあるだろう。
吹雪の真夜中に立ち入り禁止区域でへたり込んでいる人間を見たら。




