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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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8



 猿助と鳴丸のやり取りを横目に、高彬さんは扉前に設置したライトの具合を確かめて頷く。


「部屋の中に置かないの?」


「壊されたら困るだろ?」


「確かに」


「お前はこのライトを守ってくれよ? オレと竜輝が人形たちの相手をするから」


「私が守るの? 人形が照らされたら私の眼で止めてしまった方が早くない?」


「お前なぁ……」


 ガシガシと結わえた金髪を呆れたように掻く高彬さんの代わりに猩猩二匹を仲裁していた竜輝くんが頬を膨らませて私を振り返る。


「比和子様! 駄目ですよ! 出来るだけ眼は使用しないようにと玉彦様に言われていたじゃないですか!」


「そうそう。お前、自分が妊婦っていう意識低すぎだろ。自分だけの身体じゃないんだぞ」


「すみません……」


 二人に咎められて私は苦笑いしか出来ない。

 過保護な玉彦が私を猩猩屋敷へと大人しく向かわせてくれた、訳ではない。

 いつも通りに反対していつも通りに御小言を浴びせた。

 でも澄彦さんが猩猩とのコンタクトに私は必須だからと説得に加わってくれて、玉彦が譲歩した結果が眼を使用しないということだった。

 胎児にどういう影響が出てしまうのか分からない為でもあるけれど、母体を疲労させないためである。

 澄彦さんも玉彦も一度宿った子どもはこれまでの長い正武家の歴史の中で産まれてこなかったことはない、ということを私に教えてくれて、必ず子どもたちは産まれては来るけれどその時に母体が命を落としてしまうことはあった、と言っていた。

 医療水準が低かったからという理由ではなく、何らかの原因があったようでまだ解明されてはいないそうだ。

 この事が実は正武家で誕生日を祝う習慣がなかったことに影響していたのだと私は同時に知った。


 跡継ぎ誕生と共に母親が死ぬ。

 誕生日は命日でもあったのだ。

 水彦も道彦もそうして母親を亡くし、澄彦さんは自身が誕生してから半年ほどで母親を亡くしている。

 玉彦を産んだ月子さんは数代ぶりに無事に跡継ぎを産み、その後正武家屋敷で五年過ごせた例である。


 ちなみに伴侶に先立たれた正武家家人は髪を剃り落とす。

 水彦も道彦も遺伝的に禿げていたのではなく、そういう仕来りで剃り落としていたと知って私はちょっとだけ安心した。

 そして坊主頭の玉彦も麗しい姿になるのだろうけれど、さすがに二十代からずっと坊主は可哀想なので迂闊に死んではいけないと改めてその時に思ったのだった。


「一応当主次代の御札を身に付けておられるとはいえ、油断は禁物です。特に比和子様は突拍子も無いことをされるので重々注視する様にと玉彦様から言われております」


 玉彦のやつめ。あれだけ私に御小言を浴びせて、しっかり竜輝くんにまで忘れず念を押しておくとは。


「はいはい、わかりましたー。大人しくしておきますー」


 まぁ、とりあえず眼さえ使わなければ問題は無い。

 人形は恐らく私に簡単には触れられない。当主次代の御札が護ってくれているから。

 悪意を持たないあやかしならばさっき私を運んでくれた阿平のように平気なんだろうけれど、悪意を持って向かって来れば御札は反応して弾き返してくれるはず。


 そんな感じで私はのんびり構えて、さっきの日本人形を思い出して二の腕に鳥肌が立った。

 あまりに唐突に視界に飛び込んできたから咄嗟に掴んで放り投げてしまったけれど、よくよく思い返せば不用意に触れてしまったり、不本意ながら危害を加えてしまったりしてしまった。

 きっとここに玉彦が居たならば一も二もなく帰れ! と追い出されているだろう。

 それほど危ないことを私はしてしまっていた。

 触れれば呪われる恐れがあったし、危害を加えれば反撃される恐れもあった。


「よっし! それじゃあとりあえず開けるぞー!」


 高彬さんの声と同時に猿助が扉を開き、ライトの後ろに居た竜輝くんが部屋を眩く照らし出す。


「うげっ……!」


 私は思わず声を上げて二、三歩後ずさった。


 扉のすぐ向こうにはアイドルのように正面からライトを照らされた日本人形が、わなわなと震えながら仁王立ちして下からけながら私たちを見渡し、そして私のところで目線は固定された。



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