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「おじさん~。どんな催しなの~。おいら達でも楽しめる~?」
「はぁ。そうですねー。雰囲気ぐらいは楽しめると思いますー」
「雰囲気だけぇ?」
「えぇ。一応主役の方々が別にいらっしゃいますからね」
「おいらたちは主役にはなれないってことね」
どさっと座席に戻った零に御主人はあからさまに眉間に皺を寄せた。
「参加するのは自由と言われてますけど、あんまり場の空気を壊すことをされたら追い出されますから気を付けてください。本当に」
「本当にぃ?」
「本当です。恐らく女性たちから袋叩きに遭うと思いますよ……」
「いひひ。自分は女の子からの袋叩き、大歓迎」
アヤトの呟きに零ですら黙り、それ以降車内では誰も口を開かなかった。
宿から車で走ること十分。
催し物がある場所は、普通の民家だったらしく、そこへと繋がる道路は路駐の車で埋め尽くされていた。
オレたちは御主人に送迎だけしてもらうので、車は家が見えるところまで進入し、オレたちを降ろした御主人は夕方に迎えに来ると言って走り去った。
それにしても、人、人、人、である。
しかも女の子、女性、女性。たまに男。金髪少年。えっ、金髪少年!? こんなところに!?
赤いサンタコスプレをしていた本物の金髪の外国の少年二人を二度見すれば、オレに気が付いた小さい少年が手を振ってくれた。
反射的に振り返すと隣で若干挙動不審になっている零がオレのジャンパーの袖を引いた。
男同士なら強気だが、女の子の前だと委縮して内弁慶になるらしい。
「カズヲ。これはクリスマスイベントというやつではないか?」
「だろうな。食事会も兼ねてるんだろ。外人さんも来てるみたいだから、ミサでもするんじゃね?」
自分で言っておいてなんだが、こんな山奥の家でミサってなんかおかしい。
オシャレをしている女の子たちは目の保養になるが、それ以外の家族連れや年配の人間はいないことに違和感を覚える。
いくら田舎だとしても少しくらいいてもいいんじゃないの。
オレを先頭にして家の垣根を越えれば、広々とした庭にテントがいくつも張られて立食パーティーさながらだ。
十二月でもう雪が積もっているが、会場の熱気であまり寒さは感じない。
むしろ何だか香水の良い匂いがするんだぜ。
とりあえずこれが何の為の催し物なのかは知らないが、部外者のオレたちがいても誰も咎めない。
それどころか遠巻きに観察されているようにさえ思う。
観察……。
どうやらオレは早々に零とアヤトから離れた方が良さそうだ。
別の意味で注目されている。
「零。自由行動にしようぜ。じゃあなっ!」
袖を掴む零を振り解き、アヤトに頷いたオレはさっさと二人から離れることに成功した。
あの様子だと二人はまだ家の中にも入られることに気が付いていない。
庭を徘徊してると捕まる恐れがあるので、オレは早々に広そうな日本家屋の民家へ避難した。
二階へと通じる階段は封鎖されており、オレは絶対に二人が近付かないであろう家の台所付近へと身を隠し、ポケットからスマホを取り出した。
料理の準備をしているおばさんたちに怪訝な視線を送られたが、オレは背を向ける。
着歴は無い。
クリスマスだっていうのに仕事が忙しいんだろうか。
ダメ元で御門森に掛けたが不発で、オレは須藤の名前をタップした。
テッテレテッテレテテテテテ……テッテレテッテレテテテテテ……。
ん?




