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「どちらかへお出掛け、ですか。ご友人のところですか。お送りしましょうか」
「え、っと。あの、鈴白村の……」
「お邪魔しまーす! おいらたちと一緒に食べませんか!」
渡りに船だった御主人のご厚意に甘えようとしたオレの声は隣室から乱入してきた男に阻まれた。
オレよりも小さく、オレよりも横にデカい。
冬なのに室内でも半袖でいられる熱量を発することの出来る巨躯。
わさわさと伸ばされた髪は剛毛で、後ろで結んでいるが重力に逆らってとんがっている。
そして何よりも圧倒的な油感の顔面、おでこ。
顔のパーツだけは無駄に整っている様に見えるが、肉に埋もれ気味。
こんな奴にオレは陰キャと罵られたのかw
「あーっと、ごめんなさい。オレ、ちょっと用事が出来て出掛けないと」
「こんな時間に? 女の子との約束ですかぁ~? 抜け駆けは良くないですねぇ~」
「ぬ、抜け駆け? いやそうじゃなく」
「まぁまぁ男一人旅なんでしょ、君ぃ。おいらたちも男だけの二人旅なんですよぉ。ほらお前も入っちまえよ」
零と思わしき男の背後からおずおずと顔を出したのは、背が高くポキリと折れてしまいそうなほど細い虚弱体質そうな青年で、顔色がとにかく悪い。白すぎる。髪はマッシュルーム。
印象の薄い顔立ちの中で唯一唇だけが赤く発色しており、なんつーか、こう、普通に怖い。
「おいら、山田です。こっちは佐藤。よろしくー。あっ、後はおいらたちが適当にするんで、おじさんたちは消えて良いですよ」
「おい、言い方っていうものがあるだろ! すみません!」
何度も頭を下げたオレに御主人と女将さんは苦笑いを浮かべて立ち去って行く。
せっかく玉様の屋敷に行こうとしていたのに出鼻を挫かれた。
零はオレが安芸津たちとこっそり合流して遊ぶと勘違いしているらしく、食事が終わっても自分たちの部屋へと戻らず、風呂まで一緒で、布団まで持ち込もうとしたので丁重に断ったのはもう深夜の二時過ぎだった。
翌朝。零とアヤトの二人に突撃をかまされるのが嫌だったオレは、朝風呂ついでに御主人に下で食事を摂ることを告げた。
狭い空間で男三人での食事は拷問だった。
零はここぞとばかりに機関銃のように一方的に話し、まぁ内容はオカルトスポット巡りの話で面白かったが、そこでやってることがDQNで、誇らしげに武勇伝の如く語っていたがいつか本物にぶち当たって呪われると思う。
アヤトは零と幼馴染で、口数は少ないがここぞの時にはポツリと呟き、笑いを誘う。ちなみにオレと同じ年。
普通のオフ会だったら楽しめたかもしれない。
が、ここは本当にヤバいところが盛りだくさんの土地で、オレは玉様たちへの罪悪感があることから全く楽しめない。
遊び半分でこういうことをするのは良くないことだと解ってはいたはずなのに、どうして参加してしまったんだオレは。
正解は玉様にこういうこと企てている人間が居るよ、と知らせるべきだったんじゃないのか。
今からでもきっと、遅くはない。
決行は今夜だ。
幸い今日は宿の御主人が教えてくれた催し物に参加予定で、ここらでいっとう立派な方々が来るってくらいだから、玉様の家の関係者が来ていても不思議じゃない。
オレが玉様たちに会えなくても、その人に伝言をお願いすることは出来る。
一応昨日みたいに須藤と御門森へ電話はしてみたけれど、出なかった。
たぶん、仕事が終わらないと掛け直して来てはくれないだろう。
もしかしたら、またオレのくだらない話かも、って感じで掛け直しても来ないかもしれない。
メールでもとも考えたが、話が長くなり過ぎ、ぽちぽち考えながら打ってたら、零に見つかってしまう。
最悪トイレでと頭を過るが、こういう時に限ってどぼんって落としたりする男なんだよな、オレは。だから危険は回避する。
そんな訳で階下で朝食をいただき、オレは身支度をして御主人のバンに乗り込んだ。
まだオレが安芸津たちと合流しようとしていると勘違いをしている零とアヤトも一緒に来るようだ。
御主人は村外から来た男はモテモテと言っていたが、この二人には何も言わず、ましてや今日そんな集まりがあることすら教えていなかったようで、オレの金魚のフンと化していた二人を見て肩から力が抜けたのが分かった。
助手席に乗ったオレの背後から身を乗り出した零は前のめり気味に鼻息荒く、運転する御主人に質問を浴びせまくる。




