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中ではもう既に零とアヤト、安芸津が到着報告を終えていて、今宿に男が来たと零がオレのことを話題にしていた。
普通のなよっとして頼りなさそうで陰キャそうな感じだと評されている。
てめぇはどんだけのもんなんだよ。後でしっかり観察してやるからな。
とかいってこういう場合、すげぇカッコいいヤツとかのパターン。
いやいや、そんなはずはない。ないと思いたい。
だって零は自分の事『おいら』って言うんだぜ? ないだろ。
ちなみにアヤトは『自分』。
自分は普通に使うが、おいらってwww
『どうも。陰キャなカズヲですw』
何を言われようとも挫けないのがオレの長所。
陰キャと言われようがトラブルメーカーと言われようが屁の河童なんだぜ。
『あっ。カズヲくん。いたのねwおいら、見たままの感想を言ってしまったよ』
『いいよ、いいよ。否定はしないw』
『自分は普通の人に見えた』
『アヤト、君は良いヤツだ。零はクズ』
『これで有志が全員集ったわね。エリカは私と一緒に居るから』
主の安芸津が発言すると、場がピリリと締まる。
安芸津。HPの主。女。ログを辿って分かったことと言えば、社会人であることと視えることくらい。
あと厨二病を拗らせている。
『明日の夜、決行よ。各自準備は怠らないように。現地で落ち合うから、そっちは三人で来るように。指揮は零に任せるわ』
『りょ』
『……ただの田舎だと思っていたけれど、どうやらこの土地は相当危険なところのようだから三人とも油断しないで。以上』
安芸津が抜けて、続いて零とアヤトが退室した。
オレもこれ以上ここに用はないのでログアウトする。
安芸津は本物なのだろうか。
それとも感じているフリをしているのだろうか。
真っ暗なスマホの画面をぼーっと眺めていると、不意に着信があり、須藤涼の名前が表示された。
やっぱりな。やっぱり須藤だよな。御門森が掛け直してくるわけないもんよ。
オレは直ぐ様スマホを耳に当てた。
『あ、鈴木? どうした? また何か問題でもあったの?』
オレを心配する須藤の声を聞いて、オレは館の連中と話をしていたどろっとした感情が拭われた。
涼の名に恥じない、なんとも涼やかな男よ。
「特になんにもないが、須藤の声が聞きたくて」
『……クリスマスで人恋しくなっちゃったんだろ。あったかい風呂でも入って美味しいものでも食べて、寝ちゃえばいいよ』
「うん」
『鈴木? 大丈夫か?』
「うんっ」
『もしまた困ったことがあったら、言えよ? こうやって連絡してきたってことは何かあったんじゃないの?』
あったというか、現在進行形で首を自ら突っ込んでいます。
心配気な須藤に後ろめたさ全開で、オレは言葉に詰まった。
白状した方が良いだろうか。でも、怒られるの怖い。
良心の呵責に苛まれていると向こうで誰かが須藤を呼び、須藤は何かあったら連絡するようにと言って通話を切った。
オレは今、最大の分岐点に立たされている、んじゃないのか。
オカルトの館の住人たちと行くのか、それとも須藤に洗いざらい話して怒られても館の住人たちを玉様とかに止めてもらうのか。
え、どうする。
今すぐ玉様屋敷に行って、ごめんなさいする方が良いんじゃないのか。
今ならまだオカルトスポットには行っていないし、許してもらえるかもしれん。
ジャンパーとマフラーを掴み立ち上がると、ドアがノックされて御主人と女将さんが揃ってお膳を運んできてくれた。
食事だというのに出掛けようとしていたオレに眉を顰めたご主人は、オレを部屋の奥に押し戻して料理を手際よく並べ始めた。
こちらを見ようともせず、しかし御主人はオレに話し掛けた。




