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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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7


 それから一時間、である。


 照明機器を携帯バッテリー付きで運び込んだ高彬さんが到着して、扉の前に設置する。

 照明は写真撮影する時に使用するような黒い脚付きの丸いライトのタイプでこれでもかとういうほど煌々と光り輝いていた。


「こんなもの、正武家にもあったのねぇ」


 しげしげと見ていれば高彬さんが駐車場の隣の石蔵から須藤くんが出してくれたという。

 須藤くんと高彬さんはちょっと微妙な距離感だけれどとりあえずは上手くやっているようである。


「でー、これから奴らを奥へ追い立てて、戻って来させたらどうする。壊してから祓うのか?」


 錫杖の具合を確認していた竜輝くんはどうしましょうかと考える素振りを見せると、猿助は出来れば壊さないで欲しいとあるのかないのか解らない眉毛の部分にハの字の皺を刻ませた。


「なんでよ。可哀想になっちゃったの?」


「そうじゃねぇ。せっかく飾った人形が壊れちゃ嫌だろうが」


「は?」


「洋風の人形はここいらじゃ珍しいんだからよ」


「……そういえばあんた。人形ってどっから手に入れたのよ」


 そもそもである。

 天狗のように人間として生活基盤があれば働いてお金を稼いで物を買うことが出来るけれど、猩猩は猩猩のままなので骨董品を買うために必要なお金は稼げない。


「山で拾ったり、遠くの山で拾ったり」


「山にこんなの落ちてるわけないでしょ! 盗んで来たの!?」


「今は! ゴミしか落ちてねぇけども! 昔は隠し財産を山に隠す人間がいて百年くらい取りに来なかったら良いかなって」


 テヘっと笑った猿助の頭を背伸びして叩く。


「盗んでるじゃないの!」


「盗んでねぇ! 拾ったんだ! 百年取りに来なかったら捨てたも同じだ!」


 ぐぬぬと睨み合った私たちの間に竜輝くんがまぁまぁと仲裁に入ったけれど、骨董品は百年経っても金属ならば腐らずそこにあるけど人形はそうじゃない。

 何年も野ざらしになっていたら風化して朽ち果ててくるはずである。

 それに最近になって人形が部屋で暴れたってことは、人形は最近手に入れたものである可能性が高い。


「じゃああの人形はどっから拾って来たのよ!」


 閉められた扉を指差せば猿助は事もなげに答えて、私と竜輝くんと高彬さんは絶句した。


「あれか? あれはこの前の祭りの時に神社の裏に一杯人形とか積まれててよー。焼いちまう前みたいだったから綺麗そうなのを持ってきたんだよ。もったいないだろ」


「……猿助。それって持ってきちゃ駄目なやつ……」


 人形供養のお焚きあげから持って来れば、そりゃあ一つや二つ、本当にヤバい人形もあるでしょうよ……。

 しかも五村の村にあった人形ならなおさら。


 澄彦さんや玉彦は五村内の不可思議なものが起こす異変には敏感だけれど、小物過ぎたり人間に被害が無いようなら基本的に放置している。

 人形もきっと村民の家では可愛がられて大人しくしていたのだろう。

 でも猿助に連れ去られ、押し込められた骨董部屋は真っ暗で、腹が立ったに違いない。

 人形は見られて可愛がられてなんぼである。

 暗闇で話し掛けてくれる人もおらず、誰かが来たと思ったら猿助なわけで。

 どう頑張っても猿助が人形を可愛がっている姿が思い浮かばない。

 いっそのこと雌の猩猩にでもプレゼントしていたなら話は変わっていただろうが、猿助は収集するのが好きなようなのでコレクションを誰かにあげるということは無いだろう。


 人形をどこから手に入れてきたのか初めて知った様子の鳴丸はようやく動けるようになり、猿助を前にして肩を震わせた。


「その人形は捨ててあったのではなく神社へ供養の為に持ち込まれたものです! そんなもの動き出して当たり前でしょうがー!」


 鳴丸の叫びはごもっともで、胸ぐらを掴まれてがくんがくんと揺らされる猿助を私たちは助けるつもりはない。


「しかもよりによって本当に一番危ないものを持って帰って来るなどー!」


 そこね。何の変哲のない人形じゃなくてあえて危ない方を選んじゃう猿助はある意味すごい。

 変な感じがするなって気が付かなかったのか疑問だけど、お祭りだったみたいだし酔っぱらっていたのかもしれない。




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