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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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7


 オカルトの館では、今回の集まりについて一つだけ重要な決まりごとがあった。

 それはあくまでも集まったのは偶然で、知らない者同士として最初は接する、というものだ。

 これはエリカが言い出したことだった。

 万が一、曰く付きの場所で何かがあった場合、計画を立ててまでそこを訪れたとバレると非常に不味いらしい。


 まぁ、不味いんだろうな。

 今年の夏に玉様の屋敷に御厄介になったとき、オレは玉様の彼女、じゃない奥さんの比和子ちゃんから話を聞いていた。

 同席していた玉様は比和子ちゃんが話すことについて補足こそすれ、否定することは一切なく、オレに自分の家のことを教えてくれた。


 玉様の家、正武家は大昔に色々あり、現代も不可思議なものを祓い鎮めている、と。

 普通ならそんな話は信じないが視えちゃうオレにとってそれは嘘ではないと分かったし、玉様がどんな血筋の人間であれ、友達には変わりないのでたいした問題じゃなかった。

 むしろ視えちゃうだけでどうしようも出来ないオレにとって、玉様は助けてくれる貴重な存在なのである。


 昔からここに住んでいる玉様の一族は、この辺に危ないものとかを封印しているそうで、あちこちにそういったものがある、と比和子ちゃんが言っていたのを覚えている。

 無暗矢鱈に立ち入るのは禁止されていて、若かりし頃の比和子ちゃんは酷い目に遭ったのだと玉様と揃って遠い目をしていた。


 んでもって、だ。

 今回エリカがオレたちを連れて行こうとしているのは、間違いなく立ち入っちゃいけないところの一つなんだと思う。


『緑林の倒れずの木戸』。


 古い木戸が朽ち果てず、何をしても倒れない。らしい。

 それだけだったら、ほーんと思うだけだが、この木戸。視えるエリカ曰く普通じゃないそうだ。

 言い伝えによると木戸を開けて通ると異世界に行ってしまうだとか、呪われて死ぬとか。

 確かめてみたいが学校の友達は村のしきたりに逆らうと隣村の恐ろしい一族から制裁があるので誰も話に乗ってくれなかったとエリカは言っていた。

 しかもこの恐ろしい一族は人間ではない、私には狐が化けていることが分かってるとも。

 いや、玉様は間違いなく人間だぜ? とオレは大いに突っ込みたかったが、へぇ、とだけ言っておいた。


 こういうのって、あれだろ?

 知らないフリしてた方が面白いだろ?


 そんなわけで、宿に到着したオレはおじさんに案内されて、土産物の小物が多いフロントでチェックインすると、二階の角部屋に通された。

 家族経営の宿は、玉様のお屋敷よりも小さな二階建ての日本家屋で、時代劇の宿屋のようだった。

 さすがにドアは襖ではなく鍵がかけられるような木製のドアだが、室内は八畳の和室。

 座卓に二つの座椅子。

 窓際まで歩いて障子を開ければ、外の雪景色が望めた。


「食事は六時半になります。ここでにしますか? それとも下の広間で?」


 振り返ればおじさんはドアを半開きにして返事を待っており、オレが部屋で、と告げると頷いて閉めた。

 一人きりだが、一つ屋根の下に誰かが居るという安心感にホッとする。

 思いの外、オレは寂しがりだったんだな。


 座椅子に座って窓から見える重たく黒い雲に目をやり、オレはスマホを手に取った。

 御門森か須藤に連絡をして、とりあえず玉様が屋敷に居るのか探っておかねばならない。

 サプライズで訪ねて行って、みんな出払ってました、だと洒落にならん。

 さすがに十七時も過ぎれば仕事も終わっているだろう。

 そう思って御門森にコールしても出ず、須藤も出ない。

 まさかこれは忙しすぎて電話に出られないパターンか!?

 着歴が残っていれば御門森はともかく須藤は律儀に掛け直してくれると信じる。


 十日近くも宿に泊まるのは初めてのことだったオレは、着替えなど一応十日分持ってきたので部屋で荷物を広げて片づける。

 自分の部屋もこれくらい整理整頓すれば散らからないで済むのだが。

 食事の前にせっかくだから温泉の大浴場へとも思ったが、時計を見ればもう六時。

 あと三十分しかない。


 急かされるように入るのは落ち着かないから、食べ終わってからにしよう。

 そうすると逆に三十分が長すぎる。

 あぁ、一応到着したよって館の連中にも知らせておいた方が良いだろう。


 そんな訳でオレは宿にフリーWi-Fiがあることに感動しつつ、オカルトの館に顔を出した。




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