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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 残り僅かな有給を数日消化し、早目の年末年始休暇に突入したオレはクリスマスイブの土曜日に緑林村を訪れた。

 オカルトの館にすんなりと馴染んだオレは、疑われることもなく参加を受け入れられ、今に至る。


 駅からバスに揺られ、鈴白村のバス停を通過して緑林村のバス停で降りれば、そこは一面薄らと雪が積もり、人気が無い。

 竹林に囲まれたバス停は一本道の脇にあり民家はなく、バスが行ってしまった後に残されたオレは荷物を抱え、ポツンと立ち尽くす。

 やっぱり、止めときゃ良かったかも、とか今さらながら思った。


 時は既に夕方近く、旅館からのお迎えのバンが少しだけ遅れて到着。

 荷物を積み、後部座席に落ち着くと、運転手のおじさんが振り向いて二カッと笑う。

 五十過ぎのガタイの良いおじさんで、これからオレがお世話になる宿の御主人だそうだ。


「なんにもない辺鄙なとこですが、間違いなくゆっくりはできますんでー」


「あ、はい。十日間ほどよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるとバンは走り出し、村外から来たオレが珍しかったらしいおじさんがあれやこれやと聞いて来る。

 まさか肝試し探訪に来ました、とは言えないので、オレは大学時代の友人がこの辺に住んでいることを当たり障りなく話した。

 が、それが玉様だったり御門森だったり須藤だったりすることは伏せた。

 あいつら三人はこの辺じゃ顔が知られてるのは前に来た時に解かったし、サプライズで登場したかったのでオレの存在は隠すに限る。


「それで、あのー。オレの他に宿泊客っているんですかね?」


「あー、いますよー。男性客がお二人とー」


 間違いない。零とアヤトだ。

 御主人はその他に夫婦が一組と四人家族、そして若い女性客の三人グループが居ると教えてくれた。

 宿はそんなに大きくなく家族経営なので、オレも含めれば残りの部屋はあと一つとのことだった。

 打ち合わせで安芸津はエリカの家に泊まると聞いている。


 宿までの道中、降り始めた粉雪がワイパーに弾かれては飛んでいく。

 ぼんやりとそれを眺めていたらおじさんは、ミラー越しにオレを窺う。


「なんすか?」


「明日はクリスマスでー。男性がお一人ということは……お連れさんが後から来るとかありますかねー?」


「……無いです。すんません」


 そんな彼女がいたなら、ここへは来ないし計画も立てなかった。


「……こちらこそすみません。あぁ、だったら明日、面白い集まりが村であるんですよー。たぶん五村の年頃の子たちが集まって来ると思うんでどうですかねー?」


 気まずい雰囲気をどうにかしようとおじさんはオレに話題を振ってくれる。

 気遣いを無駄にするわけにはいかないので、オレは気を取り直して話に乗った。

 おじさんのいう年頃の子たちっていうのは何歳くらいなのか重要だが、オレに話をするってことは流石に小学生とかではないだろう。


「クリスマス会とかですか?」


 日本のド田舎の代名詞のような場所でクリスマスを祝うとは思えないが、一応聞いてみる。


「いやぁ。ここいらでいっとう立派な方々が、なんつうんですかね、見合い? じゃないか。面通し、でもないか。若いもんと交流を深める為に催しものをするんですわー。緑林の冴島っていう家が米十俵で取り付けた話でねー」


「はぁ……?」


 米十俵ってなんだ?

 いっとう立派な方々って玉様の家か?

 全く話は見えてこないが、何か催し物があるんだろう。

 おじさんの話の感じだと結構大掛かりなものみたいで、彼女が居ないオレに勧めるってことは女の子が来るんだろうな。

 でも明日の夜はオカルトの館の集まりがある。

 参加は出来ない、とも思ったが、そういう集まりがあるのなら、夜中に宿を抜け出したとしても怪しまれないですみそうだ。


「面白そうですね。行ってみようかな」


 オレがそう言うとおじさんは村外の男は珍しいからモテモテですよ、と下世話な笑みを浮かべた。




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