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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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5


「うそーん……マジかよぉ……」


 既に旅行気分だったオレ。

 ピッと通話を切ってパソコンに表示されている鈴白村の地図を凝視する。


 ……そうだ。別に鈴白村じゃなくてもいいじゃないか。

 隣の村とかなら逆に空いてるんじゃねーの?


 スススッとマウスを動かせば鳴黒村。

 ここは前に須藤の父さんが働いているっつーことでお邪魔したが、まぁあれだ。止めておこう。

 変なの産まれてたしな。


 そしてスススッと行けば、藍染村。

 ここは須田と小町ちゃんが住んでるとこなので、泊まる必要はない。

 遊びに行くことになれば嫌でも行くことになるからな。


 でもってスススッと赤石村。

 ここは海が近いのか。海かぁ……。冬の海は眺めていると心寂うらさびしくなるんだよ。止めとこ。


 つーことで、最後は緑林村。

 鈴白村みたく山が多いところ。読んで字の如く緑の林があるんだろう。

 拡大すると外れに温泉宿もある。ここにしようか。

 いや、ちょっと待て。その前に緑林村とはどんなところなのか検索しておこう。

 地図上では鈴白村と隣接していて近く思えるが、山越えが必要だとか玉様の屋敷に行くまでの道のりがとんでもないものだったら困る。

 どうせだったらサプライズで登場したいので、自力で行ける交通手段があればいいのだが。


 そうして調べること数分。

 とりあえずバスはある様だが、一日四本。ええっ、冗談だろ。

 しかも朝と夕方。学生や社会人が利用する時間帯だけ。

 おまけにオレが行こうとしている日は土日祝日運行スケジュールで一日二本。

 い、行きだけバスで行って帰りは玉様の家の車で送ってもらうことになるやもしれん。


 とりあえず交通手段は把握した。

 次に観光名所だが、……ないな。ないわー。マジでない。有り得ない、ではなく存在しない。

 村の施設はどこもかしこも年末年始で休館だ。

 開いていたとしてもオレの興味を引くようなとこもない。

 これは強制的に宿で過ごさねばならなくなるパターンだ。

 はたしてこうまでして泊りに行かなきゃいけないのかと根本的な問題があるが、もうオレの旅行気分は止められない。


「とりあえず緑林村で検索しなおすか……」


 と言っても普通の検索の仕方だと同じことしか出てこないので、オレは某呟きで検索をかけた。


「緑林村……っと。……まぁな、村民が呟くとは思ってないが、ねぇな……」


 そうして各村の名前も検索してみたが、ヒットしたのは極僅かで、先月学校祭があったらしいことだけが分かった。

 高校生のアカウントをフォロワー繋がりで飛んで行くと、気になる言葉が目に付いた。


『募集してるけど僻地だからあんま集まんない』


 なんだ、これは?

 高校生が何を募集してるんだ?


 呟きを遡るとアカウントぬしは女子高生らしく、うほっと思ったが、この鈴木和夫。

 未成年には全く興味がございません。年下は年下でも自活している年下女性にしか興味はありません。

 まだまだ若いつもりのオレだが、ちょっと年代が離れると何を話しているのかわからん。

 職場のおっさんたちは若い子はいいぞーと言うが、それはおっさんの扱いに慣れた自活する若いお姉ちゃんたちのあしらい方が上手いだけで、若い子が全員いいわけではないのである。

 それに姉貴が居るオレは知っている。

 偏見かもしれんが女性は十八を超えなきゃ本性は分からない。

 自立して親の抑制から解放されて初めて本性が現れるのだ。

 なので大卒の女性は二十二を超えなきゃだし、ましてやこの何かの募集をしている女子高生はオレのストライクゾーンには掠りもしない。


 で、オレがうほっと思ったのは、女子高生だからじゃなく、彼女の呟きがオカルトのオンパレードだったからである。

 だって玉様たちが住む村の近くのオカルト話なんて、絶対半分以上は本物だろう。絶対、絶対だ!


「でー? この子は何を募集してんだー?」


 探偵さながら呟きを読み込み、どうやら彼女はどこかのオカルトフォーラムに出入りしていることを突き止めた。

 彼女がフォローしているアカウントを片っ端から確認して、関係ありそうなアカウントを辿ること数人。

 オレはとうとう『オカルトの館』という個人のHPに行き着いた。

 参加者はそんなに多くなく、雑談スレは通りすがりの発言を除けば名アリの常連が分かるが十人も居ない。

 女子高生は女子高生ということでスレでは大人気、エリカと呼ばれていた。


 雑談を読み込むとどうやら視えるらしいエリカが自分が住んでいるところの曰く付きの場所へ行くが、一人で行っても面白くないので誰か一緒に行こう、というものだった。

 しかし常連連中は社会人がほとんどらしく、クリスマスが絡む週末、しかも年末とあって参加者は芳しくない。

 参加表明しているのは、オレと同じ匂いが漂うちょっとオタクっぽいれい、男。

 その友人、アヤト、男。この二人はたぶんダサい本名だからハンドルネームはカッコ良さげなものにしているとオレには解っちゃうんだぜ。

 三人目は安芸津アキツ。このHPの主で女。なんつーか、発言の隅から隅まで厨二。彼女も視えるらしい。

 中々に濃い面子が揃う中、オレは飛び込んでみた。


『どうもROM専だったカズヲです。オレも行きたいです』


 しっぽり過ごす予定の年末年始が、げにおそろしかった件。




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