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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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3


「とにかくあそこは絶対にダメ。玉彦なんて夢でうなされたんだから」


 私の本気の忠告に竜輝くんは頷かない。エドワードは唇を噛み締め、眉間の皺を深くさせた。


「それで? どうして木戸?」


 木戸を知っているか、と聞いたからにはそこに何かがあり、そして竜輝くんは少なくとも鈴白行脚で訪れる場所であると承知してはいる。

 どういうことになっているのか私に聞きたかったのだろうが、行脚の供ではないとさっき竜輝くんは否定したから下調べではない。

 では何の為に話を聞きたかったのか。そこが重要だ。


「学校で……」


「うんうん」


「自分は霊感が強いと言っている生徒がいまして。普通科の女子なのですが」


「ほうほう」


「たまたま昼時にその話をしているのを耳にして。視えることは特に珍しい事でもないと放って置こうと思ったのですが」


「ですが?」


「問題が起こりそうな感じが」


「問題?」


 竜輝くんに合いの手をいれていた私の首が九十度曲がる。


 私がまだ鈴白村へ転校する前に通っていた学校で、自称自分は視える人が稀にいた。

 本当に視えていたのかは今となっては分からないが、きっと視えていなかったと思う。

 本当に視えていたら、きっと玉彦のお友達の鈴木くんのように口を閉ざして、普通であろうとする。

 百歩譲って口を閉ざさなかったとしても、そういう人は自分は視えるよ、とアピールするのは危険だと経験するのであえて何も言わないパターンが多い。と、思う。

 でも霊能力を生業としている人間は例外である。

 ただし総じて言えることは、本当に視える人間は遊びでどうこうしないということだ。

 竜輝くんの様子を察するに、視える女子が緑林の倒れずの木戸へ行こうとしているのだろう。

 肝試し的な感じで、友達も誘ったのか。

 しかしそこは正武家が鈴白行脚で廻る『本当に何かがある場所』で危険だと竜輝くんは思ったのだ。


「そんなの、放置で良いわよ。近寄るなって言ってるところに行って痛い目に遭うのは自己責任。万が一何かがあったとしても、澄彦さんか玉彦の出番になるだけよ」


 五村に点在する正武家が立ち入りを禁止している場所はお役目に関わる場所と大人たちは承知しているので近寄らないが、正武家とは何ぞやと詳しく知らない未成年の子供たちは怖いもの見たさの好奇心で足を踏み入れることがある。

 その時大人は、命の危険が無さそうな場所は見てみぬふりをするのだ。

 言ってきかないなら、痛い目に遭って学べば良いと。


 緑林の倒れずの木戸は確かに危険だけれど、命の危険はない。

 あそこは危険の種類が違い過ぎる。

 しかし痛い目に遭うにはとっておきの場所で、トラウマ級なのは玉彦と須藤くんで立証済みである。


 希来里ちゃんのこっくりさんの件もあったでしょ、と私が話を締めくくろうとしたら、竜輝くんの隣でスマホをいじっていたエドワードがその画面を私に向けた。


「見て」


「んん~?」


 黒い画面に赤い文字でオカルトの館とある。

 よくある怪奇現象系のホームページのようだ。


「これがなに?」


「その女子、ここで一緒に行くやつ募集してるんだ」


「はっ?」


 エドワードの手からスマホを受け取り、トーク画面をスライドさせると中の人間たちは明日がどうのと盛り上がりを見せていた。


「え、村外から!? てゆうか、明日!?」


 スマホと二人を何度も見返し、私は面倒臭さ度Maxの問題に閉口した。


 正武家は家業、と言って良いのかお役目に関して目立つことを良しとしていない。

 不可思議な出来事だからと何でもかんでも引き受ける訳でもない。

 正武家の収入源の一つであるお役目料が高い理由はここにある。

 お金というハードルと信用できる誰かの伝手という口外無用のお約束を設けることで、ある程度の振るい落としをしている。

 なぜならお役目は常に命に関わるものであり、出来れば五村以外のお役目はしたくない、村外に出歩きたくない正武家の事情があるからだ。

 正武家や五村の特異性を村外でおおやけに語ることはタブーとされており、以前澄彦さんに聞いたところによるとメディア業界とはある協定が結ばれていて、テレビやラジオ、そして新聞や雑誌などでは五村に関する不可思議なことは審査や校閲段階で弾かれてしまうそうだ。


 しかし現代である。

 個人で発信できるツールがあるインターネットの世界で正武家の規制は行き届かないだろう。

 一度世に出てしまったらすぐに手を回してもデジタルタトゥーは残る。

 特にこういったオカルト系のものは動画などでも人気があって、心霊スポットとして広まってしまえば取り返しがつかない。


 どう考えても私たちの手に余る問題だと判断し、私は懐の鈴を何度も鳴らしたのだった。



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