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「と、云う訳で、澄彦さん。家宅六神という神様たちがいらっしゃるそうなので、本殿に御神酒と盃を奉納しますね。それで、玉彦。このあと部屋の畳を剥がすから、手伝ってね」
「それは構わないけど、それって比和子ちゃんのお昼寝の夢じゃないの? なんだってこの寒空で本殿なんか」
「手伝うではなく、俺が剥がす。比和子は重いものは持てぬだろう。自覚せよ。それとやはり鈴は持ち歩かねばならぬようだな」
立て込んだお役目に珍しく疲れた様子の当主と次代を前に、私は夕餉の席で日中の出来事を語り、そして協力を要請した。
本殿に入るには当主の澄彦さんの許可が必要だし、部屋の畳をいきなり私が剥がそうとしたら玉彦が驚くので懇切丁寧に道彦との出来事を語れば、澄彦さんは夢だと信じないし、玉彦は信じたようだが過保護ぶりを発揮する。
確かに畳を持ち上げたりするのはお腹に力が入るので、玉彦の心配も分からなくはない。
「じゃあ澄彦さん。もし畳の下に隠し箱があったら、信じてくださいよ?」
「うんうん。それにしても親父がなぁ。僕のとこには出てこないのに」
「今回の場合は化けて出てくるって感じじゃなくって、生前の世界だった感じなんですよねぇ」
「そうかぁ。今だからこそ色々と語り合いたいこともあるんだけどね。年を重ねてそう思うよ」
しんみりと箸を置いた澄彦さんはふうっと息を吐き、そして私を見つめる。
そのタレ目を見て、やっぱり道彦と似てるなと思った。
そんなこんなで夕餉が終わり、私たちの話をお膳を下げに来た多門が聞いて、隠し箱の有無を確かめる為に家人と稀人たちが部屋に勢揃いした。
腕を捲った須藤くんと多門が慣れた様子で畳を剥がし、そこを全員で覗けばただの板があるだけで私以外は肩を落とした。
しかし私は道彦があると言ったなら絶対にあるはずだと信じている。
「ない、な」
玉彦が板を手で擦り、澄彦さんと南天さんは顔を見合わせたが、廊下で右往左往していた黒駒が彼らの足元をすり抜け、板を前足で掻いた。
「下に、なんかあるみたいだけど」
黒駒を代弁した多門に豹馬くんは頬を引き攣らせたが、ここまで来て畳を戻すのも納得がいかないという玉彦の一声で大掃除さながら部屋の全ての畳が剥がされて廊下に立てかけられた。
それから板を剥がしてみれば、ぴったりと漆塗りの細長い箱が収められていて、私は玉彦に促されて手に取る。
「あ、開けるわよ?」
ゆっくりと蓋を持ち上げると、赤い布が張られた箱の中には道彦の手作りと思われる二つの可愛いでんでん太鼓と、二通のお手紙が入っていた。
私を見送ったあと、道彦は双子のためにと作ってくれたのだろう。
ぶわっと込み上げてきた涙をまばたきで散らして、折り畳まれ包まれた和紙のお手紙を手に取る。
一通はまだ見ぬ子孫へ、とあり正武家たるもの正武家であれ。と書かれていた。
そして残りの一通はもし生きているならば愚息へ。とあり、私は澄彦さんに手渡す。
受け取った澄彦さんは神妙に封を切り、中のお手紙に目を走らせると感動して泣きだすかと思いきや、天井を仰いで分かってるよ、と呟く。
だらりと下げられた澄彦さんの手にある和紙に首を傾げながら視線を合わせれば、そこには簡潔に『道楽を禁ズ。』とあったのだった。




