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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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 二人の神様が消えた台所の外ではスマホを片手に玉彦と話している須藤くんが箒でガラスの破片を丁寧に掃き集め、それを見ながら私は勝手口玄関に腰をおろしてぼんやりと思う。


 火之炫毘古神は産まれた時に自身の火で母を不本意ながら殺してしまった。

 そして父の手により殺された。

 あっという間の本当に短い一生で、赤ちゃんのまま殺されてしまった火之炫毘古神が成長した姿というものを恐らく知る神様は居ない。

 御倉神の口ぶりだと赤ちゃんである、というのが火之炫毘古神の不変の姿なのだろう。

 しかし私の前に現れた火之炫毘古神は幼い男の子の姿で、火の神様、明るく溌剌としたイメージそのままの姿だ。

 これは私の想像力がものすんごく優れているのじゃなくて、『私がそうイメージしたからそうなった』のだろう。


 神様という存在は尊いものだけれど、存在条件はあやかしと似ており、自身の存在が人々から忘れ去られてしまったとき、消えてしまう定めにあるそうだ。

 御倉神は全国各地にある稲荷神社の親玉であり、その存在は確固たるもので、日本列島が無くならない限り存在する事ができるだろう。

 同じく火之炫毘古神も澄彦さんが以前言っていた通りかなり有名な神様なので、忘れ去られることはまずない。

 けれど人々が思い浮かべる火之炫毘古神は赤ちゃんのまま殺された、ということで単純に炎に包まれた赤子だと思われる。

 中には大人になった姿で描かれることもある様だが、あくまでも想像の域を出ないのだ。だって御倉神曰く、神様の世界ですら火之炫毘古神は赤子なのだから彼が成長した本当の姿は誰にも分からない。はずだった。


 誰のどういった思惑でこういう事態になったのか。

 正武家の跡継ぎの守護神に選ばれた火之炫毘古神は赤ちゃんのままでは守護を全うできないため、『成長する』というなんとも厄介な制約が何者かによって施されたようだ。

 去り際に御倉神が告げたこと、それは私の子どもと共に火之炫毘古神も神様として成長する、ということだ。

 そして子どもが天寿を全うすれば守護神もまたお役御免となり、高天原へと帰るのだろう。

 せっかく成長したのに赤ちゃんに戻って、だ。

 しかし気になるのは『ひとときの夢で終わらぬように』という言葉。


「うーん……」


 御倉神が仄めかした言葉たちについて私がいくら考えても思いつくのは額面通りのものばかりで、ひとまず玉彦が帰って来たら相談してみようと思った。




 私の等身大のパネルから悪魔を追い出したところまでは良かったが、追い出された悪魔は正武家屋敷の方角へと飛んで行ってしまい、美山高校に集結していた玉彦たちは慌てて後を追う羽目になった。

 多門によって一行から先行させられた黒駒は、お屋敷に神様二人が訪問中だったので出番はなかった。

 車中で報告を受けた玉彦は二人の神様と聞いて、御倉神ともう一人は火之炫毘古神だろうと何となく思ったらしい。

 神様が二人もいるのだからそんなに急がずに帰って来れば良いのに、通常の半分の時間で帰宅した玉彦は須藤くんとのやり取りもあり、裏門から離れを通ってではなく、庭を突っ切って台所の勝手口へと息を切らせて飛び込んできた。

 悪魔がどうのこうのよりも神様二人に無理難題を押し付けられたり、おかしな約束を取り付けたりしなかったかと明後日方向の心配をしていた。


 ひとまず今夜はもう遅いということもあり、スミス神父とエドワードは自宅へと戻り、日を改めて今回の件について話し合いを設けるそうだ。

 通常悪魔祓いされた悪魔は地獄へと行くのがお決まりで、スミス神父が以前住んでいた横浜や他の地域でもその流れは変わらなかったのだが、どういう訳か五村で悪魔祓いを行うと対象物からは出て行くものの、現世に留まってしまったことから、今後スミス神父が悪魔祓いを行う際の注意事項を増やさねばならないらしい。

 それには今回の件以外にも数件試してみなくてはならないため、しばらくは澄彦さんか玉彦が悪魔祓いに同席する方向で話は進みそうだった。


 それと話合いの話題はもう一つ。

 視えるようになってしまったエドワードの処遇である。


 スミス神父はエクソシストとして数々の場数を踏んでいることから本来の護符の使用方法や五村のあやかしと対峙した際の対処などは言わずもがなだが、何分なにぶんエドワードは初心者も良いところで、スミス神父が色々と指導しようとしても素直には聞いてくれない。

 なぜならエドワードも竜輝くんと同じく、ちょっと遅い反抗期だから。


 それで、結局。

 大昔、陣行平さんが先代の道彦に教えを乞うたように、エドワードは宗祐さんに弟子入りする方向らしい。

 父親の南天さんに反抗的な態度を取るらしい竜輝くんもエドワードと一緒に、だそうだ。

 宗祐さんは稀人を引退してから御門森のお屋敷で奥さんの東さんと穏やかな時間を過ごしていたが、後進の教育ということならば、ときっと一肌脱いでくれるに違いない。



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