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本殿の巫女である竹婆はもう休んでいるだろうという須藤くんの言葉に御倉神は頷き、とりあえず私たちは再び台所へと戻った。
玉彦と私の私室でも良かったのだけれど、御倉神が何か用意しろと催促するので手早く準備が出来る台所となったのだった。
たいして動きの無いタブレットを前に二人の神様に挟まれて座った私は御倉神と火之炫毘古神にタブレットとは何ぞやから今のお役目まで説明をし、その間須藤くんはひとまずさっきの残りの塩豆大福を出してから、慌ただしく動いていた。
豹馬くんが居残り組じゃなくて良かったと思う。
「外つ国のものか……」
眉を顰めた御倉神はもぐもぐと塩豆大福を頬張り、ぺろりと指を舐める。
お供えはなにも揚げじゃなくても良いようだ。
火之炫毘古神は目にも止まらぬ早さで食べ終わり、須藤くんの背中をキラキラと見つめていた。
「まぁ悪魔ってやつね。ほんと面倒だったんだから。よりによって私のパネルに憑りついちゃってさぁ。私になりきって学校を周ってたみたいでね」
夜中に徘徊していたから良いものの、もし人目がある日中だったなら私が呪われているからパネルが動いたとおかしな噂が立ちかねなかった。
玉彦が言っていた私に所縁ある人物というか、私になりきった人物である。
「紛い物とすぐにわかるもので良かったの。もしあれが人と成り得る人形であったとき、入れ代わりが起きてもおかしくなかったのー」
「え、そうなの? でも流石にそうなったら玉彦か澄彦さんが気付いてくれると思うわよ?」
「気付いた時にはもう遅い。その時にはもう乙女は身罷っておる」
「……そうなんだ……」
ということは、私のパネルに憑りついたのは不幸中の幸いと言ったところか。
エドワードの手により解放された悪魔は、彼の気配が残る護符と人の活気ある名残が漂う美山高校に引き寄せられ、夜の学校のグラウンドに設営されたステージに飾られていた私のパネルが一番最初に目に入ったのだろう。
もしパネルじゃなく本物の人間に憑りついていたなら、捜し出すのは困難で、被害が出てから動くことになっただろう。
「お待たせしました」
ほんの十分ほどでほうれん草と揚げの煮浸しとハチミツたっぷりのホットケーキを用意してくれた須藤くんが神様たちの前にお皿を並べて、ついでに飲み物も出して席に着いた。須藤くん、有能。
「酒が良かったのー」
「贅沢言わない。澄彦さんの母屋ならお酒は常備してあるけど、こっちにはないわ」
玉彦の母屋に住まう住人は基本的にお酒を嗜まず、たまに玉彦が呑みたいと言えば澄彦さんの母屋から拝借するのがいつもの流れだ。
今時というのか玉彦も稀人たちもお酒や煙草には興味が無いらしい。
澄彦さんは呑むし、吸うし、稀人を引退した宗祐さんは呑めないが吸っていた。
ちなみに南天さんは呑むが吸わない。何故なら前に聞いたところによると小さい頃に澄彦さんと私のお父さんと一緒に煙草を悪戯して具合が悪くなったのでトラウマになったそうだ。しょうもない。父二人が。
「何か動きはあった?」
タブレットを覗き込んだ須藤くんに首を横に振れば、やっぱりという顔をして浮かせていた腰を下ろした。
「朝になるまでに決着しないと生徒が登校してくるわよねぇ」
チラリと見上げた時計は既に二十二時。
悪魔祓いとは時間が掛かるもの、と玉彦が言っていたからまだまだ掛かるのだろう。
残り九時間ほどで解決できるのかということよりも、外で悪魔祓いをしている彼らが凍えてしまうのではないかとそっちの方が気にかかる。
タブレットを眺めつつ煮浸しをちびちび食べ進めていた御倉神は少しだけ暗闇が大半の画面に顔を近付けた。
そしてホットケーキをあっという間に平らげた火之炫毘古神がお箸でタブレットをつつく。
「もう終わりそうだぞ?」
「え?」