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本物の私が文句を垂れていると、画面の向こうでは早速動き出した玉彦と豹馬くんがゆっくりとした足取りでパネルに近付き、周囲に身を隠していた南天さんたちも姿を現した。
ステージ裏で一定の距離を保ってパネルを取り囲んだけれど、優勝トロフィーを抱えた私のパネルを前にして彼らの表情は微妙な感じだった。
それにしても、だ。
護符に残されていた手形は女性のもので、確かにパネルは私だから女性だけれど、右手にマイクを握り、左手にトロフィーを抱えているので手形は付けられない。
パネルが動くってことは普通じゃないから何かが依代に利用しているのは確かだが、手形の主かと言われると疑問だ。
「どうするんだろ……」
一頻り文句を言い終えた私は椅子に背を預け、腕組みをする。
正武家の面々だけならばこのあと問答無用で玉彦の出番であり、それでおしまいだ。
けれど今夜はスミス神父が同席していて、元々は彼が同僚の神父から預かった曰くあるオルゴールが原因なので正武家はサポート的な役割なのか。
豹馬くんがスッと後ろへと下がり、画面内には玉彦の背中が映し出された。
そして彼の代わりに前に進み出たのは緊張の面持ちのスミス神父だ。
一緒に来ていたエドワードは南天さんと竜輝くんの間に挟まれ、陰になって見えにくいけれど竜輝くんが学生服の背を掴んでいるように見えた。
私の予想通り、玉彦はスミス神父に一任して、万が一に備えるようだ。
パネルと対峙したスミス神父は左手に聖書、そして右手に十字架を持ち、大きく深呼吸したのがわかった。
対して私のパネルは満面の笑みを浮かべたままで、この場を舐め腐っているようにしか見えない。
それは私のパネルなんだけれど、どうしても私が立っている様に思えてならなかった。
『緊迫感に欠ける……』
豹馬くんの言葉に私と須藤くんは同時に頷いた。
私がお屋敷でお留守番をすることを条件に玉彦が話てくれたこと。
それは彼の予想も交えての話だったが、どうやら当たっていたようだ。
オルゴールから逃げ出したものは、スミス神父らが云うような悪魔であること。
なので今回は悪魔祓いが行われるであろうこと。スミス神父と相談はするが慣れた者が対処する方向で行くと言っていた。
玉彦が知る限り悪魔祓いは神父二人で行うのが一番要領が良いそうで、一人はずーっと聖書を読み上げ、もう一人は悪魔に自身の名前を教えるように尋ね続けるそうだ。
聖書をBGMに悪魔を弱らせつつがセオリーだけれど、スミス神父は一人で悪魔祓いを行うことから通常の悪魔祓いではないのかもしれないとも。
ここで疑問なのが悪魔が人間に憑りついていたなら話せる口があるが、相手はパネルである。素材はただの板に貼られた私の等身大の写真だ。どう考えても話せない。
しかし歩いていたことから動けるのは確かで、話せるのかもしれないがどうなることやら。
懐から取り出した小瓶の聖水をパネルに振りかけるスミス神父の背を見ながら、私は腕組みをしたまま二の腕をぎゅっと握る。
もし彼が失敗したなら玉彦の出番となるはずで、何とかなるだろうとは言っていたが本当に何とかなるのか。
宣呪言が通用する可能性は低く、黒扇や太刀の出番が来てしまうかもしれない。
黒扇はともかく太刀は使用してほしくないと思う。
最近では大分玉彦の穢れに対する考え方が寛容になり、私と分かち合うということは少なくなった。
けれど未知の者を祓うという行為は玉彦の精神に少なからず負担は必ずある。
それは今回の事を発端に仲間の悪魔が報復に出るかもしれないという危惧など色々だ。
玉彦はいつも通りの役目だと私に告げていたが、私の心配は尽きない。
私が様々なことを思い巡らせている間、画面の向こうでは聖水を振りかけられたパネルが前後左右に身を捩ってガタガタと揺れるだけで、それ以上の動きは無かったが、スミス神父が聖書を片手に厳かに十字架を構えると場はこちらにも伝わる程一変した。
カメラを通して見ているだけのこちらにもぞわぞわと寒気が伝わる程の異様な気配だ。




