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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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3


「たいしたことじゃあないのよ。ほんと。スミス神父が預かったものをエドワードが失くしちゃったのよ。それがどこにあるのかな? って感じよ」


 搔い摘んだ私の内容に嘘はない。

 スミス神父が預かったものをエドワードが『勝手に』持ち出し『何かをやらかし』、失くしたのではなく『バレたら困るからどこかに隠した』というエドワードの立場を思いやった最大限の搔い摘みだ。

 弟のリチャードくんがいる手前、悪し様に悪くは言えない。


「はーん。それでみんなでだんまり考えてるってわけね」


「そうそう」


 実際はエドワードが語り出すのを待っているんだけど。


「子供のころってそういうのあるよねー。意味わかんないとこに置いちゃったりとかさー。兄貴なんて筆入れと間違ってランドセルにテレビのリモコン入れてったことあるよ」


「あーわかるー」


「そんでさ、自分で失くしたくせにあたしのせいにすんの。で、結局自分の部屋で見つかるパターン」


「その間に兄妹喧嘩があるんでしょ」


「そうそう。ムカつくからあたしが探し出して目の前に突き出してやんのよ」


「でも認めないでしょ」


「そうそう! お前が隠したからすぐに見付けられたんだろって! 増々喧嘩する」


「僕の家もそうだよ」


「やっぱり!? 兄貴ってさ、すーぐ下のせいにするんだよね」


「僕も僕のせいにされるからいっつも知らんぷりするよ」


 私は弟が居たけど高校生の時に鈴白村へ来てしまったので、ヒカルとそういう喧嘩をした覚えはない。

 どちらかと言うとヒカルが隠した物をお母さんと二人で家の中を捜索する側だった。

 下の子同士で意気投合した那奈とリチャードくんはお兄ちゃんあるあるを言い出して、悪口大会になりつつあった。


 ……。


 ……?


 いっつも知らんぷりする……?


「リチャードくん?」


「なぁに?」


 不意に喰らった天使スマイルに緩んだ頬を自分で叩き、私は湯呑みを膝に下ろした。


「エドワードが今捜してるもの、どんなのか知ってる?」


「うん。これくらいの木のオルゴールだよ」


 広げられた手の幅はスマホくらいでそう大きなものではない。

 惣領の間ではエドワードが問い質されていたけど、肝心のスミス神父が何を預かったのかは訊いていなかった。

 玉彦の質問は『護符の手形の主の心当たり』であり、ジュリアさんが聞き出そうとしていた『預かり物の行方』ではない。


「あのね、夜にね、テッドがパカッて開けてね、びっくりしてた」


「びっくりした? 中に何かあったの?」


「なーんにも」


「……そのオルゴールってどこにあるの?」


「うーんとね。夜はベッドの下にあったよ。でもそのあとトイレとかいろんなとこ。朝になって学校へ行くから持ってったみたいだよ。でもね、おかしいんだよ、テッド。オルゴールカバンに入れたのに捜さなきゃって言ってた。きっと入れたこと忘れちゃったんだと思って知らんぷりしてるの」


 マグカップを両手に持ってフーフーするリチャードくんは、事の重大さを理解していないようで、私は那奈と視線を絡めた。

 ニコニコと話を聞いていた松梅コンビも途中から怪訝になり、あっと気付く。

 豹馬くんが言っていたことが大当たりだ。


 スミス神父が預かったオルゴールは恐らく曰く付きのモノ。

 兄弟はこっそり夜中に開けて見るという悪さを二人で働いたのだ。

 そして多分、中に何かが入っていて開けた拍子に逃げて行ったのだろう。

 視えるエドワードは驚き、視えないリチャードくんは分からなかった。

 そしてそして弟は兄を見ていた。

 失くしものを自分のせいにされちゃ堪らんと。



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