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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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12


「解説、お願いします……」


「まったく……」


 腕を組み直した玉彦は、一度校舎を振り返ってから再び溜息を吐いた。


「五月。竜輝は視える眼を発現させた」


 家出をした私とずっと一緒に居て触発されたせいもあるが、父親の南天さんや曾祖父の九条さんが視える人だったから竜輝くんにも素質があった。


「視えるようになり、竜輝は校内で七不思議所縁の場所を廻ったと聞いている」


「うん。私、紙に書いて教えてあげたわ。付喪神いるわよ……って……」


 そう、そうなのだ。


 視えるようになった竜輝くんだけど稀人とはいえまだ未成年なので、お役目に参ずることは少なく、眼を活用する機会がなかった。

 せっかく視えるようになったのだから視てみたいという欲求は満たされず残念そうにしていたので教えてあげたのだ。

 ついでに屋上で蔵人に会ったとか、放送室のミキサーをいじって怒られたとか、三年生になってクラスの皆は受験勉強で受験しない私は美術室や図書室で一人で課題をしていたとか。


 竜輝くんはきっと七不思議以外に私が話したところへ足を運んでいたのだろう。

 そして日頃からちょっと気になっていた場所へも行っていたりして、だから無関係な場所にも護符は貼られてしまった。


 しかし、疑問は残る。

 なぜ私が竜輝くんに話した場所に貼った護符にことごとく手形が付けられていたのか、だ。


「わかった。理解した。けど。手形は」


「それはまた別のモノである」


「えっ?」


 さらに玉彦へ解説を求めようと袖を引くと、わああぁっという歓声が上がり、私は玉彦から正面へ顔を向けた。


 何とかして護符を猩猩に貼り付けようとするエドワードを阻止する竜輝くん二人が攻防を繰り広げており、彼らの一挙手一投足に歓声が上がっていた。

 我武者羅なエドワードに武道の心得がある竜輝くんが手加減してなし、実力差は傍から見ても明らかだった。

 学生でも、稀人。しかも九条さんに鍛えられた竜輝くんだ。エドワードにしてやられることはないだろう。

 と、思っていたがエドワードが猩猩から標的を小町へと変えたところで、竜輝くんの顔色が変わった。


「さてはお前も化け物の仲間だな!? 作り物の人形め! 退魔!」


 まさか自分に飛び火するとは思っていなかった小町が両腕で頭を抱え込み、すかさず間に滑り込んだ竜輝くんの頬をエドワードの拳が見舞った。

 鈍い音が私の耳にも届き、思わず自分の左頬を摩る。

 あれは、痛い。力加減も何もなく振り抜かれた拳は痛い。


「このっ……!」


 怒りに満ちた竜輝くんが反撃しようとした瞬間。


「坊ちゃんに何てことすんだ、てめぇ!」


 巨大な二匹の影が素早くエドワードの前に立つが否や、エドワードは学生服の襟首を掴まれ宙ぶらりんとなり、そして玉彦のひと際大きな柏手が響いた。


「捕獲者、猿助。以上で仕舞いである。みな、苦労であった」


 一番美味しいところを掻っ攫っていった玉彦と猿助に拍手喝采が集まる中、私は見ていた。

 怒りに任せて振り上げようとしていた竜輝くんの拳は背後から南天さんに掴まれ、止められていたのを。












「この手は、護る為にあるもの。自身の感情のままに振るう力は暴力です」


「……はい」


 保健室にて。


 丸い椅子に座った竜輝くんは手当てをしてくれる南天さんに訥々と諭され頷いては返事を繰り返した。

 袖を捲った学生服の下は赤くなっており、次の日には青くなったり黄色くなったりしてしまうだろう。


 親子の会話を背に私はベットに腰掛けるエドワードと座って対面していた。

 腕組みをした隣の玉彦は立ったままで不貞腐れている彼を見下ろし、須藤くんと多門はエドワードから聞きだした残りの護符を回収しに奔走している。

 美山高校で英語教師として働いていた母親のジュリアさんと、小町から一報を受けた守くんも駆け付け、保健室は困惑した空気が流れていた。

 守くんは小町と目配せをすると、普通ではない出来事が関係していると判断して、彼女と猩猩二匹を連れて保健室から退散していった。


 賢明な判断だと思う。

 これからどう展開していくか分からなく、聞いてしまったがために巻き込まれてしまう恐れもある。

 正武家の動きに素知らぬ振りをして日常生活に戻るというスキルは五村では必須のものだ。

 守くん、段々と馴染んでいるなぁと背中を見送る。


「なぜこんなことを!」


 冷静に話し込む御門森親子とは対照的に、スミス親子は、というかジュリアさんは感情的になりガクガクとエドワードの肩を揺らした。

 護符の在処ありかを吐かされたエドワードはそれ以降ずっと黙り込んでおり、閉じた口を左右にぐにぐにさせるものの頑なに母親の問いには答えなかった。


 エドワードはエドワードなりに竜輝くんが怪しいと思い、正義感で動いたのだろうがやり方がねぇ……。

 まぁ確かに視えるようになって竜輝くんを尾行すればことごとく怪しい場所に行くものだから、訝しむ気持ちは解らなくも無いけれど、だったら単刀直入に何してんだって聞いてみれば良かったのに、と思う。

 でも二人の間はスミス一家が御門森のお屋敷にお世話になった時から拗れていたみたいだし、素直に聞けなかったのかなぁとも思う。

 竜輝くんに二度も木に吊るされてたしね。





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