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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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11


 二つの絶対に合い入れない集団を遠巻きに、私と玉彦は巻き込まれないようにしている。

 玉彦の予想が確かならばステージのどこかに護符があるはずで、手形の主が現れるはずなのだ。

 私がいくら眼を凝らしても反応するのは猩猩二匹にのみで、既に護符が貼られていたとしてもまだ手形は付けられていないと思われる。

 これまで護符が発見されたのは学校祭とは関係の無い場所で、特設ステージは学校祭前日に組み立てられることからエドワードが貼り付けられるチャンスは一昨日と昨日、今日。

 数日後には撤収するステージに果たして貼り付ける意味はあるのか。


「ねぇ、あなた?」


「うん?」


「この人ゴミに紛れて手形の主は来るのかしら? 警戒して来ないと思うんだけど」


 私の疑問は玉彦も危惧していたようで、深く顎を引いた。


「一旦解散させるか。護符の位置さえ把握できればそこを……」


 と、言葉を途切れさせた玉彦の視線が遠くに向けられ、向かい合っていた私はその先を辿った。

 けれど背の高い玉彦からは見えていても私は集団に遮られて見えなかった。

 段々と右から左へ、視線は何もないグラウンドの端からステージ裏へと移動して、玉彦の顔が正面を向いた時、私の背後で青少年独特の声変わりによる擦れ声が響いた。


「退魔!」


 ハッとして振り返れば、そこには金髪小僧こと護符を指の間に挟んだ学生服のエドワードが飛び上がって猿助に向かい、そして間に挟まれた状態になった竜輝くんが猿助を庇うように左腕でエドワードを払いのけたところだった。


「とうとう正体を現したな! 貴様もやはり同類だったんだな! タツキ!」


 ヒーローショーの正義の味方よろしく身構えたエドワードはじりりと護符を構えつつ、呆れた様子の竜輝くんを睨み付けた。

 周囲では突然始まった茶番劇に騒然となり、須藤くんと多門がハーレムを抜け出して彼女たちに危険が及ばぬように後ろへと下がらせた。

 それを見ていた小町も子どもたちを下がらせ、面白いことはーじまーるよー! と歌のお姉さんよろしく操っている。

 なんだなんだとステージ前の人たちも裏を覗きに来て、あっという間に人が集まった。

 イベント捕獲対象であるエドワードが竜輝くんと対峙し、スポンサーの玉彦が居たことから周囲の人々はこれが緊急イベント終わりの合図なのだと思い込んでいるようだ。


「そこの化け物を手懐け、学校を侵略しようとする悪者め!」


 ビシッとエドワードに指差された猿助と鳴丸は顔を見合わせ、肩を竦めた。

 実際猩猩はあやかしで彼が言うように化け物の部類ではある。

 それをきちんと見抜いたエドワードの眼は本物だ。

 しかし猩猩二匹は『正武家当主様の御友人に特殊メイクを施された、小町のモデル時代の外国の男友達』という設定なので、真実を言っているエドワードの叫びは誰にも信じてもらえず、この茶番劇の台詞なのだと思われている。

 周囲で生じた笑いにエドワードは戸惑い、そして今度は竜輝くんを指差す。


「おかしいと思っていたんだ! 昨日の戦い、あれも化け物の手を借りたんだろう! そうじゃなきゃオレが負けるはずがない!」


 どうやら私が思っていた通り、昨日の学生たちだけの前夜祭で騎将戦の大将を決める何かがあり、立候補したのか推薦されたのか、たぶん立候補だとは思うけど、竜輝くんと大将の座を争ってエドワードは敗北を喫したのだろう。


「学校の中をあちこち回って、結界とか、なんかそんなの張ったんだろう! だがそれはオレが封じた!」


 どうだと言わんばかりに胸を張ったエドワードに玉彦が溜息を吐いた。

 そして私を見下ろして、そういうことだ、と言う。


 そういうことだも何も全く私は意味が解らない。

 ようするにエドワードは竜輝くんが校内を回って怪しい動きをしていたので、後ろを付けて竜輝くんが何かをしていた場所に護符を貼り付けていったということなんだろうけれど。




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