6
「ねぇ、あなた?」
けっして学校祭を楽しむ雰囲気と顔ではない玉彦の袖を軽く引く。
予定外のお役目に発展しそうなのでご機嫌は下り坂だ。
「どうした」
「あのね。探すの、面倒臭いでしょう? せっかくのお祭りなのに楽しむどころの話じゃないでしょう?」
「確かに」
「護符を探す前に張本人を捕まえて白状させた方が早いと思うのよ。だって隠されていて感じることでしか探せないものって手間でしょ」
「では稀人たちにそう指示を」
「いやいや、良いのよ。彼らには彼らで頑張ってもらって、私たちで金髪小僧を見つけましょ」
「しかしどのように」
「あれ、利用しましょ」
私が指差した先には迷子放送やイベント時間を知らせるために忙しく動いている放送室があった。
「あなた、お財布にいくら入ってるの?」
怪訝な顔をした玉彦は一枚二枚と数えるが、まぁそれなりには入っているのだろう。
私が横目でチラリと見ただけでもそれなり以上には入っている。
「あなた。大盤振る舞いしてちょうだい」
「?」
「懸賞金掛けましょ。捕まえた人には美山高校学校祭か購買で使えるお食事券十万円分、もしくは稀人二人のどちらかとデートできる権。これなら男女問わず参加してくれるわよね」
「ならば普通に放送で呼び出せば良いのではないか?」
「呼び出したところで須藤くんを見て逃げてったんだから大人しく呼び出しになんて応じないわよ。ここは人海戦術でいきましょ」
斯くして正武家次代がスポンサーの美山高校学校祭緊急イベント『金髪小僧を探せ!』が幕を切って落とされたのだった。
イベントのルールは至って簡単だ。
金髪小僧の制服を掴んで捕まえた、と宣言してツーショットの写真を撮って美山高校の学校サイトに投稿するだけ。
勿論暴力は禁止である。そして廊下を全力で走ることも禁止。
人目があるところでの捕物となるので抑止力はある程度期待でき、そしてエドワードが余程のおバカではない限り、一般客が入ることの出来ない無法地帯となる恐れがある立ち入り禁止区域に逃げ込むことは無いだろう。
強制的にイベントに参加させられることになったのはなにもエドワードだけではないところがミソでもある。
参加者が探すのは『金髪小僧』なのだ。
美山高校は五村内のほぼすべての子供が進学してくる。
中には不良少年少女と呼ばれる子たちも勿論いて、女子は髪の毛が痛むから精々茶色にするくらいだけれど信じられないくらいキンキンの金髪にしている少年たちもしばしばいる。
先生たちは常日頃髪色は変えるな、校則を守れと口を酸っぱくして指導しているにも関わらず従わない彼らも今回のターゲットになってしまっていた。
しかし彼らが投稿されたところで『正武家次代様が探している金髪小僧』ではないのでイベントは続行される。
参加者は手あたり次第に捕まえる必要があり、彼らはエドワードが捕まるまで追い掛けられる運命にある。
参加者が一々学校サイトを確認してから写真を撮ろうとすれば彼らは逃げてしまう恐れがあるので、とりあえず捕まえてパチリとなるだろう。
こうなると彼らは学校祭を楽しむどころの騒ぎではない。
逃げずにただ歩いていたとしても何度も捕まえたと勝手に宣言されて、見も知らぬ人と写真に収まらなくてはならないのである。
止めろと言おうものなら『次代様のイベントなのに』と言われてしまい、渋々従うことになるだろう。
そうすると彼らがするのはただ一つ。
髪色を元の色へと戻すことである。
学校祭は今日を合わせて残り二日。最終日は穏やかに過ごしたいだろう。
一見横暴にも思えるこのイベントだが先生たちからすれば荒療治の一環程度の認識で、校内の巡回ついでにイベントの監視役をしてもらうことになった。
黒髪に戻します、と約束した生徒には背中に偽金髪小僧という張り紙を貼り、明日までにという約束をして解放するお助け役でもある。
「とんでもないことを考えたものだ」
放送室に居た先生たちと簡単に話を纏めた私の背後で玉彦は呟き、そして鳴り続けるスマホを手にして目を落とす。
相手は聞くまでも無い。
今回勝手にご褒美扱いされてしまった須藤くんか多門だろう。




