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私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~  作者: 清水 律
私と玉彦の正武家奇譚『陸』~誕生編~
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2


「頼む!」


「嫌よ。面倒臭い」


「頼む!」


「どうして自分で何とかしないのよ」


「だって怖いだろうが! 人形が動くんだぞ!?」


「はっ?」


「人形が動くんだぞ!? 怖いだろ!」


 必死な形相の猿助は本当に怖がっているようで、私は目が丸くなった。


 だって猩猩の猿助が動く人形を怖がるって。

 自分だって同じ穴の狢の存在なのに。


 幽霊やお化けを怖がる人間は多い。何故なら普通では有り得ないことだから。

 でも猿助は自分がそう云う存在なわけだし、同類を怖がるって、人間が人間を怖いと思うのと同じだ。

 確かに怖いと思う人間はいるけれど、基本的に人間という存在は怖くない。


「まぁ……怖いとは思うけど、所詮は人形なんだし」


「呪われたらどうすんだ!」


「あんたねぇ……」


 私は眉間に指を添えて再び溜息が出る。


 動く人形は確かに怖い。これは認める。

 でも呪われたらどうしようとか。

 そんなの良く解かんないけど猩猩の力とかでなんとか弾き返せば良いだけの話じゃないの?

 そもそも猩猩にだってそういう力はあるはずだし、出来ないことはないだろう。


 呆れかえる私に猿助はさらに詰め寄り、着物の裾を掴む。


「護り手にお祓いしてもらいてえんだよ!」


「お、お祓い?」


「そういうもんはお祓いをして供養するもんだって鳴丸が言ったんだ」


 鳴丸とは猿助の右腕の参謀役を務める猩猩で、気苦労が多そうな猿である。


「だからここに来たわけね。ていうか、お祓いだったら神社でもお寺でも出来るからこっそり持って行けば良いじゃないの」


「持って行く前に捕まえられねぇんだってばよ! だから! 怖いし、呪われたらどうすんだ!」


「捕まえられないんだったら玉彦にだって祓えないわよ」


「だーかーらー! お前に頼みに来たんだろうが!」


「えええっ。私だって捕まえられないわよ。そんなに俊敏に動けないもん」


 しかも一応妊婦である。

 いくら竹婆に適度な運動は必要と言われているとはいえ、暴れて逃げ回る人形を捕まえるのは無理だ。


「お前の眼で止めてくれよ!」


「あぁ……! そういうことね」


 確かに神守の眼であれば視界に人形を収めれば止めることは可能だった。

 でも暴れてる人形が居る部屋に、そもそも猩猩屋敷に私が行くのは無理だ。

 絶対に玉彦の反対にあうのが目に見えている。

 もし玉彦が一緒に行ってくれると言ったとしてもだ。問題はある。


「あのね、猿助。私が猩猩屋敷に行くでしょ。ついでにお祓いできる玉彦も行くとするでしょ。でもお力を揮う玉彦に巻き込まれて猩猩も祓われちゃったりしないの?」


「大丈夫だろ。だって当主はうちで酒盛りしてたんだぞ?」


「それはさ、澄彦さんがお力を一切出さなかったからでしょう?」


「……」


「人形諸共猩猩まで祓われちゃったらどうすんのよ」


「そっ……そんなことってあんのか?」


「影響がないとは言い切れないわよね」


 なにせ正武家家人の身体からは祓いの際は特に無意識に白い靄が発生する。

 弱小の禍は靄に喰われて消えてしまうのだ。


 せっかくここまで頼みに来たのに無駄足に終わりそうな猿助は項垂れて、でもやっぱり酒瓶を煽った。


「なんか良い方法ねぇかな……」


「御札って手もあるけどあんたたち猩猩は触れないしねぇ……」


 再び腰を下ろしてどうにか猿助に協力してあげようと知恵を絞ってはみたものの、良い案は全く浮かばず。

 座る私の身体と腕の隙間にすっぽりと頭を突っ込んできた黒駒の頭を撫でて、私は閃いた。

 そうだよ。この手があった!


「この子、澄彦さんの式神なんだけど連れて行くってどう? きっと捕まえて退治することは出来ると思うわ!」


「狗はちょっと……」


 犬猿の仲っていうくらいだから、狗は苦手なんだろうけど背に腹は代えられないと思う。

 渋る猿助に黒駒は愛想よく尻尾を振っているから大丈夫だと思うんだけどなぁ。


「だったら……そっか。そうだ。稀人なんてどうよ。錫杖で殴れば一発昇天よ!」


 なんて良い案を出すことが出来るのよ、私。

 稀人だったらピンポイントで祓えるだろうし、身体能力も高いから人形の動きについていけるはずだ。


「稀人を派遣するには当主か次代の許可が必要だから、私からお願いしてみるってことでどうよ。もうこれ以上の案は無いわよ」


 と、いう訳で。

 後日例の山小屋に連絡を入れる約束をして、猿助は山へと帰って行った。

 そして私は昼餉の席で澄彦さんと玉彦にお願いをしてみたけれど、やっぱり澄彦さんは面白がって賛成してくれたのに対して玉彦は難色を示したのだった。



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